「弥次郎」

 
あらすじ うそつき弥次郎隠居の所へやって来る。「今日は嘘はつかない」ともう嘘を言っている。隠居が何か話してくれと言うと、奥州へ武者修行に行った時のことを話すという。

 
恐山の麓で山賊に囲まれたが、大岩を小脇に抱え、ちぎっては投げ、ちぎっては投げして山賊を追い払った。

 今度は大イノシシが突進して来た。逃げて木に登ったが、そこには天狗がいて進退ここに極まった。木の根元を猪が掘り始め、木が倒されそうになったので、木からの上に飛び降り乗りになって、股ぐらから手を入れ金玉を握りつぶし、とどめをさそうと腹を裂くと中から子が16匹、シシ十六とはこのことよ。

隠居 「金玉があるからオスだろう、何で子が生まれるんだ」

弥次郎は「それが畜生の浅ましさ」と軽くかわす。

 村の方から大勢人がやって来る。山賊の仲間が仕返しに来たかと身構えると、村人たちで田畑を荒らす大猪を退治してくれたお礼に来たのだ。

 庄屋の家に招かれ大歓迎され、庄屋の娘に惚れられ女房にしてくれと迫られる。まだ修行中の身、やらねばならぬ事があると逃げ始めるが、娘もどこまでも追ってくる。

 どんどん逃げて紀州の日高川を渡し船で渡って道成寺の台所の大きな水がめの中に隠れた、娘も渡し船で渡ろうとしたが、船頭を買収して渡さないように言ってあるので渡れない。すると女心の執念で1尺5寸の蛇に化けて川を渡って、道成寺にたどりつき、水がめに七巻半巻きついた。
隠居 「1尺5寸の蛇がそんなに巻けるか」

弥次郎 「それが、伸びた」、しばらくすると蛇の形はなくなってしまった。水がめの底に蛞蝓(ナメクジ)がべっとりついていて、蛇を溶かしてしまったのだという。

隠居 「まるで虫挙(むしけん)だね、その時お前はまだ武士かい」

弥次郎 「安珍という山伏で」

隠居 「道理でホラを吹き通しだ」


     


下北半島の恐山から紀伊半島の道成寺の『安珍・清姫伝説』まで飛ぶ、痛快で愉快なホラ噺です。最後まで演じたのを聞いたことはないですが。

虫拳(むしけん)とは拳遊戯の一種で、指を一本出す拳。親指は蛙、人差し指は、小指は蛞蝓(ナメクジ)を表す。親指(蛙)は小指(蛞蝓)に、小指(蛞蝓)は人差し指(蛇)に、人差し指(蛇)は親指(蛙)に勝つ。

弥次郎の弟分?弥八の登場する落語『うそつき村

三遊亭金馬の『弥次郎【YouTube】


日高川を渡ろうとする清姫(楊洲周延画)


蛇体となって日高川を渡る清姫(新形三十六怪撰



鐘の中の安珍を焼き殺そうとする蛇身となった清姫
土佐光重画『道成寺縁起絵巻』

   道成寺参道

清姫の「釣鐘まんじゅう」看板

熊野古道(紀伊路G)』
   安珍塚(手前)
安珍と釣鐘を葬った所という。
後ろは道成寺三重塔。

奥州街道の白河の先の安珍の生誕地という根田宿には安珍堂と墓がある。
奥州街道(白河宿→笠石宿)

安珍は白石の生まれで白河で修行したとも。白石の延命寺には安珍地蔵がある。
『奥州街道(白石城下→船迫宿)
   清姫蛇塚

道成寺の釣鐘に巻きついて安珍を焼き殺した清姫が入水自殺した海の入江(跡)という。


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