「ぜんざい公社」


 
あらすじ 久しぶりに大阪から東京へ出て来た大橋さん。新宿の高層ビル街を歩いていると、その一画に「ぜんざい公社」の看板。東京のぜんざいはどんな味だろうとビルに入ると、受付で二人が暇そうにべちゃべちゃ話している。
大橋さん「ぜんざい、食べたいんやけど」

受付 「6階の6番窓口へ行ってください」、大橋さんエレベーターに乗ろうとすると動いていない。

大橋さん 「エレベーター動いてないがな」

受付 「経費削減、電力節約、国民健康増進歩け歩け運動のため運転を停止しています」

大橋さん 「あんたら毎日、大変やろ」

受付 「職員専用が裏にあります。乗るには職員身分証明書の提示が必要です」、仕方なくトコトコと6階の窓口へ。

大橋さん 「ぜんざい食べたいんやけど」

窓口⑥ 「この申込書に記入してください。・・・ちょっと待って、あなた東京にお住まいですか?」

大橋さん 「いや、大阪から来たんや」

窓口⑥ 「それでしたら、こちらの遠隔地者用申込書にお願いします」

大橋さん 「何が違うねん」

窓口⑥ 「ぜんざい食べて何か問題が起こった時に面倒なことにならないよう、東京以外の方は規約が細かくなっています」

大橋さん 「何が面倒なことや。こっちの書類の方がよっぽど面倒やがな。住所・氏名・生年月日・学歴・特技・賞罰 ・・・これ履歴書やがな。・・・保証人?・・・ぜんざい食うのに何やこれ・・・」

窓口⑥ 「付き添いがいない方には保証人が必要ですが、まあ、今回は大目に見てけっこうでしょう。本人の氏名欄に捺印してください」

大橋さん 「印鑑なんて持ち歩いていやへんがな」

窓口⑥ 「それでは身分証明書か運転免許証、健康保険証が必要です」

大橋さん 「免許証はあるがな。ぜんざい食うのに免許証がいるとは恐れ入るこっちゃ」

窓口⑥ 「それでは銀行で証紙300円買って来てください」

大橋さん 「銀行はどこだねん」

窓口⑥ 「1階です」、6階→1階→6階、息を切らして、

大橋さん 「買うて来たで」

窓口⑥ 「ぜんざいは餅入りにしますか」

大橋さん 「餅入りに決まっておるやがな」

窓口⑥ 「それなら8階の診療所で健康診断を受けてください。餅をのどに詰まらせる人が多発しておりますので。診てもらってぜんざい飲食許可証をもらって来てください。健康保険証をお持ちでないと実費を徴収されますが、その点ご了承を・・・」、6階→8階の診療所へ、勤務時間中なのになぜかビルの職員ばかりで混みあっていて、えらく待たされて、

医師 「今までにぜんざいを食べたことありますか」

大橋さん 「大阪でしょちゅう食ってるがな」

医師 「食べてアレルギー症状が出たとか、餅がのどに詰まったことは?」

大橋さん 「そんなこと一度もあらへんで」

医師 「それならのどのレントゲンは省略しましょう」、やっと許可証を出してもらい、診療費なんか払えるかと大橋さん再び6階の窓口へ。だが、窓口にはただいま昼食休憩時間で、また待たされる。

やっと窓口が開いて、許可証を見せると、
窓口⑥ 「ぜんざい飲食許可証交付手数料300円を銀行に納めて来てください」、いい加減にしろと言いたいのをぐっとこらえて、6階→1階→6階のウーキングだ。

窓口⑥ 「これで手続きは完了ですが、餅は焼きますか生まで入れますか」

大橋さん 「焼くにきまってんだろ」

窓口⑥ 「焼き方はどうします。Aはこんがり狐色、Bは中に芯がある生焼け、Cは炭のように真っ黒こげ」
大橋さん 「Aしかないだろ。炭の餅なんか食うやつおらへんで」

窓口⑥ 「当社ではお客様には丁寧で細かい心配りをモットーにしておりますので」

大橋さん 「どこが丁寧で細かいのや。ただの嫌がらせやがな」

窓口⑥ 「餅を焼くので地下の消防事務所で火器使用許可書をもらって来てください」、ここまで来たら絶対にぜんざいを食うまでは大阪には帰れないとぐっと我慢して、6階→地下→6階の苦行に耐え忍んで許可証を窓口に見せると、

窓口⑥ 「おめでとうございます。これで晴れてぜんざいがお召し上がりになります。その前にぜんざい代金2000円を銀行で納めてください」

大橋さん 「2000円!そんな高えぜんざい食えるか!もうええわ」

窓口⑥ 「もう、契約は成立しておりますので契約解除の違約金が発生することになりますが、それでもよろしければ」

大橋さん 「払うよ、払うよ、」で、また6階→1階→6階で、昼飯も食ってなくへとへと、腹ペコ。

大橋さん 「ぜんざい食うとこ何処やねん」

窓口⑥ 「上野の西郷さんの近くの公社別館です。この食券を必ず渡してください」、もう怒る気も口を聞く気もなくなった大橋さん、食券を握りしめて上野の別館へやっとたどり着く。ガラガラなのにテーブルの上に置いた食券を誰も取りに来ない。

大橋さん、手を上げて、「おい、ちょっとねえちゃん」と呼ぶと、
「国家公務員さんとおっしゃい! 官僚です」、恐れ入谷の・・・だが、とにかく艱難辛苦の果てにぜんざいにありつけた。

 やっと運ばれてきたぜんざいを口に流し込んで一息ついて、こんどはゆっくりと味わおうとしたが、全然甘くない。
大橋さん 「よお、国家公務員のねえちゃん。何だいこりゃ、全然甘くない汁やがな」

国家公務員 「甘い汁はとうにわてらで吸わせてもろておりますがな」(なぜか大阪弁)





      




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