「稽古屋」

 
あらすじ 甚兵衛さんのところに喜六が忙しそうにやって来る。何がそう忙しいのかと聞くと、女子(おなご)で忙しいという。女子にもて過ぎて忙しいのかと思いきや、全然もてないので女子の尻を追い回すのに忙しいのだ。

 喜六は女子に惚れられる方法を教えれくれという。
甚兵衛さん 「昔から、一見栄、二男、三金、四芸、五声(せい)、六未通(おぼこ)、七声詞(せりふ)、八力、九肝(きも)、十評判、てなこと言うたるな」、一から順番に聞いていくが、一、二、三ともアウト。やっと四の芸で引っかかった。

喜六 「ほな、踊りはどおだす」

甚兵衛さん 「そら大したもんや。芸事でも上 (かみ)八枚に数えられてるぐらいや、どんな踊りができんねん?」

喜六 「わたいの、ちょっと珍しい宇治の名物ほ〜たる踊りちゅうねん」

甚兵衛さん 「あんまり聞かん踊りやなあ。どんなんねん」

喜六 「素っ裸にになってフンドシも取って、体中に墨汁塗って真っ黒にし、赤い手ぬぐい頭に被って、蝋燭(ろうそく)に火つけてケツに挟んで踊りまんのや」、「何やそれ」

喜六 「ケツの蝋燭が光ってになってまんねん。踊りの最後に屁で蝋燭の火を消しまんねや。ここが一番肝心の見せ場でっせ。ほんで、宇治の名物ほ〜たる踊り」、

甚兵衛さん 「そんなもん、人前でやったんかいな」

喜六 「こないだの清やんの新築祝いでやりましたんや。友達も女たちも面白がって笑うて拍手喝采やったんやが、最後の屁が出やへんで気張ったら、身が一緒に飛び出しよって、座敷中、蛍の糞だらけ、女の子たちはキャーと逃げ出すし、清やんはそれから口聞いてくれまへんのや」

甚兵衛さん 「当たり前や、惚れた女でも逃げ出すわ。そんな踊りではあけへん。この横町の小川市松さんの稽古屋で、唄か踊りか三味線かお稽古に行ったらどうや」

喜六 「あぁ、そうでっか。ほなちょっと行って来まっさ」

甚兵衛さん 「手ぶらでは行かれへん。肘付き一円持って行きや。月謝みたいなもんや。それから俳名、芸名はわしが若いころ使てた一二三(ひふみ)にしてな」、親切な甚兵衛さんは一円を立て替えてくれ、俳名までつけてくれて喜六を送り出した。

 稽古屋へ来た喜六、みなと一緒に格子戸から中を見ていると、正面の舞台では小さなお咲ちゃんが「越後獅子踊りの稽古の真っ最中、師匠の市松ねえさんが手取り足取り、きびしくやさしく教えている。

 あまり外がうるさいので見ると喜六が格子を三本も折ってしまってウロウロしている。
市松 「用事があんねやったらこっち入って、ないんやったら、早よ行っとくなはれ」

喜六 「用事があるから来てまんのや」と、入って行く。

市松 「・・・まあ、甚兵衛さんのお世話で・・・そこに座ってお稽古見てもらいまひょ。・・・はい、さっきの続きから・・・ゲラゲラ笑うて、お咲ちゃん、あんた何がそんなに面白いの?・・・ん、今来はった変なおじさんが鉄瓶の上に草履乗せてはる、まあ、ほんまや、汚いことせんとくなはれ。もう、そんなにゲラゲラ笑っていたら稽古になりまへんや。今日のお稽古ここまでにしときまひょ。・・・ええと次は、お夏ちゃん、「狂乱」の太鼓地やったな。はぁ〜、ト〜ンツテン・ト〜ンツテン・ツントン・チ〜ンテシャン・・・違う、違う、そこは違うがな・・・どうしたのお夏ちゃん、泣いたりして。叱られたのがそんなに悲しいのかえ・・・」

お夏ちゃん 「今来はったおじさんがあそこでわたいのお芋食べてはる」

市松 「あんた、何しなはんねん」

喜六 「このガキャ〜、泣きやがったらえらいでっ!」

市松 「そんな大きな声出してあんた、ほんまに大人気ない。ああ、声あげて泣き出したわ。お芋、お師匠はんがまた買うたげるさかいにもう泣くのは止めよな。・・・まぁ、泣きじゃくってるわ、もうしょうない、今日は稽古ここまでにしときまひょ。・・・次は一二三はん。あんたを済ませてしまいまひょか。まあ、お芋食べたと思うたらもう居眠りしてやはる。お稽古ですよ、一二三さん、一二三さん!」

喜六 「一二三、一二三ちゅうて・・・あぁ、オレや・・・ほなら、お稽古してもらいまひょ」

市松 「何のお稽古しまんのん?」

喜六 「そうでんなぁ、色事が仰山できて女子にもてるよなお稽古」

市松 「色事ができるようなお稽古?そんなお稽古、うちではようしまへん」

喜六 「何でんがな?」

市松 「昔から、色事は指南(思案)のほかでおますがな」


 もう一つのサゲは、師匠(市松)から地歌の「すり鉢」の歌本を渡され、「高いとこで声出しなはれ」(高い調子で歌え)と言われた喜六が家の屋根の上で、「煙立つ、煙が立つ・・・」と、大声でやっていると下を通りかかった人が、「火事は近いか?」、喜六が「海山越えて」、通行人「それだけ遠いかったら大丈夫や」




  






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