「尼買い」(東の旅G)


 
あらすじ 喜六清八は途中で道連れとなった源兵衛と三人で伊勢街道を行く。松阪商人発祥の地の松阪城下を過ぎ、祓川橋を渡り、明星の宿から宮川の桜の渡しあたりまでが今日の道のりだ。

腰と足が痛いと遅れだした喜六。昨日の宿でちょっと綺麗な女中にちょっかいを出して肘鉄を食った腹いせに、金盥(かなだらい)をかすめて背中に入れて宿を出ようとした所で、その女中に「帰りはまた寄んなはっとくれ」と背中を叩かれ「ボぉーん」で、金盥をくすねたことがバレて、番頭や若い者からあちこちどつかれたという。

喜六は昨日は一晩中、笛の音で寝れなかったというと、清八が事の顛末を話し始める。
風呂場で会ってこけにされた女が、笛の音を合図に二階の男と逢引するというのを便所から聞いて、邪魔をしてやろうと番頭に頼んで笛を買ってもらった。番頭は笛を一箱も買ってきた。
清八は奥座敷の百人組の道者に、「近頃はゴマのハエが泊っていることがある。もしゴマのハエがいると分かったら合図に笛を吹くから、その時は皆様も分かったと笛を吹いてくれ」と番頭みたいな顔をして頼んだ。

夜も更けて頃合いを見計らい清八が階段の途中の布団部屋でピィーと笛を吹くと、女が二階の男からの合図と思って階段を上って合図にピィー。清八は布団部屋でピィー、女は下かと思いへ下りてピィ、男も笛に気づいてピィ、奥の道者連中にも笛が聞こえて、一斉にピィ、ピィ、ピィの大合奏。階段を行ったり来たりの女は足を滑らせ、ダダダダダーンと転げ落ちて大騒ぎ。そのうちに夜が明けたとか。

今日は早めに切り上げて明星の宿泊りとし、三人は何人もの馬子をからかい、三宝荒神(3つの鞍を置いた馬)で明星の宿へ入って旅籠の三田屋三郎兵衛に着く。
番頭が「何人様のお泊りで」に「始終三人や」、を番頭が「四十三人」と勘違いし一騒ぎ。

喜六は飯の前に風呂へ行き、若侍が遊女といる部屋を覗き見して、あわや首を斬られそうになる。
喜六は俺にも浮かれ女(遊女)を買ってくれとごねだす。清八は番頭を呼んで、お戯(じゃれ)さんを三人回すように頼む。番頭は今日は立て込んでいて三人は無理だが、一人だけお比丘尼さん(尼さん)でいいなら何とかなるという。「坊主抱いて寝りゃかわゆてならぬ どこが尻やら頭やら」で、この際、贅沢なことは言ってはおれず承知し、公平になるように、部屋を暗くして番頭が女を上げて、どの女が当たっても恨みっこなしとする。面白い趣向と三人も乗り気だ。

手筈も整い真っ暗の中を女が上って来た。初めの女は源兵衛が手を取って引き入れた。頭をさわると、つるつるだ。しめたと思ったあとの二人、上がって来た女の頭をなでるとこれもつるつる。番頭に一杯食わされたのだ。

烏カァで夜が明けた。番頭の計略に引っかかって三人とも坊主を抱かされて腹は立つが、「一晩でも世話になったのだから、しょうないわ」と潔い。
喜六は昨晩の若侍と遊女のことが気になり、性懲りもなくまた覗き見に行く。
若侍は「一夜たりとも武士の妻、些少(さしょう)なれども、簪(かんざし)なと買ぉてくりゃれ」と銭の包みを遊女に渡していた。

これを見た喜六、俺もやると言い出し、比丘尼さんを三人並べ、
喜六 「一夜たりとも妻は妻、簪なと買ぉてくりゃれ」

比丘尼 「お客さん何言うてまんねん、私たちご覧の通りの坊主頭、簪買ぉても差すとこおまへんやないか」

喜六 「油なと、買ぉてつけてくりゃれ」

比丘尼 「油買ぉたかて髪がおまへんのや」

喜六 「お灯明なと、上げてくれ」
                                                                

 
 露の五郎・収録昭和60年3月



    
三宝荒神の三人乗り(ここは東海道吉原だが)



このあたりの伊勢街道は、『伊勢街道C』に記載。


明星の宿(『伊勢参宮名所図会』)

   明星水(安養寺境内) 《地図

門前の明星茶屋で、浄めの茶として参宮者の喉を潤した。日本三霊水の一つ。 あとの2つは、「忍潮井(忍塩井)おしおい」と、「伏見の直井」(京都伏見のどこにあるのか?)だとか。
   明星地区の旧家 《地図

このあたりは切妻・連子格子の家が並び、昔の街道風情が残っている
   
   






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