「安産」


 
あらすじ 女房 「ねぇ、お前さん。こないだから言おうと思ってたんだけど、いい折りが無かったもんだから・・・」

八五郎 「なに?折りが無かったら、竹の皮で間に合わせろ」

女房 「そんな冗談ごとじゃないの。お前さんを喜ばせる事があるんだよ」

八五郎 「へぇ、ありがてぇ、何か拾ったのか?」

女房 「欲張ってんねぇ、そうじゃないやね。この頃、見るものを見ないのよ」

八五郎 「見ないたって、見てくればいいじゃねぇか。映画でも何でも割引なら安いや」

女房 「すっぱいものが食べたいの」 、「それじゃ、梅干し食やいいじゃねえか」

女房 「分かんないかね、この人は。小さいのが出来たんだよ」

八五郎 「小さいのが・・・出来たってどこへ?」

女房 「お腹にだよ」

八五郎 「腹に出来るのはたちがよくねえや。今のうちに吸い出しを張って出しちまえ」

女房 「おできじゃないやね。赤ちゃんが出来たんだよ、子どもが」

八五郎 「えっ!子どもが・・・できた? 誰の?」

女房 「誰のって決まってんだろ、お前さんのだね」 、「そりゃありがてぇ、男か、女か」

女房 「まだ分からないやね」 、「いつ出来るんだ、二、三日うちにか」

女房 「そんなに早く行かないやね。来月が五月(いつつき)だから、お婆さんに頼んで、帯を締めるの」 、犬のお産は軽いから五月の戌の日を選んで腹帯を締める。月が経つにお腹がふくれてきて、これと反比例にお尻が後ろにせり出してきて、横から見ると英語のS字みたいになっちまって。

 いよいよ産気づいてきて、

女房 「虫がかぶって来たよ」

八五郎 「おぉ、生まれそうなのか。すぐ、取り上げ婆さんとこ行って来るから」、産婆のところへ急行して、

八五郎 「うちの嬶(かか)あが生まれそうなんだ、すぐ来てくれ」、今年八十一の大ベテランの取り上げ婆さんは少しも慌てず騒がず、

産婆 「これこれは、八っつぁんでございますか。まあ、それはそれは、おめでとうございます。こういう事は、急(せ)いては事をし損じると申しますから、今、潮時を見まして・・・」

 初産に亭主まごつく釜の前で、八五郎湯を湧かそうとして、 薪と間違えて、ゴボウを火にくべて煙だらけの大騒ぎ。

 産婆さんの方は落ち着いたもので、ちょっと歩いては腰を伸ばしながら、休み休みやって来る。
産婆 「はい、ごめんなさい。もう、私が来たからは、親船に乗った気で・・・」

八五郎 「あぶねぇ親船だな」

産婆 「これは、今を去ること六十三年前、私が十八の年、奥州松島見物に行った時に頂いた塩釜様安産のお札。これは水天宮様、戌の年戌の月戌の日のお札。成田山は身代わりの木札。これが能勢の黒札。これが寄席の木戸札・・・」、お札ならなんでもご利益があるようで。

 普段は不信心の八五郎でも苦しい時の神頼みで、一生懸命拝んでいる。

八五郎 「南無塩釜様、金比羅様、水天宮様、天神様道陸神様、久米平内濡れ仏様、おさん稲荷様、お地蔵様、何でもかまわねぇ、良い神様、どうぞ嬶あが安産をいたしますように、安産いたしましたらお礼として金無垢の鳥居を一対づつ差し上げます」

女房 「ちょいとお婆さん、止めてくださいよ。こんな貧乏世帯で金無垢の鳥居なんて・・・」

八五郎 「よけいな心配すんな。こういう時は、いくらかハッタリをかまさなきゃぇいけねぇ。金無垢の鳥居がもらえるとなれば、どんな神さんだってご利益を授けらぁ、上手く生んで、後は尻食らえ観音だ」、そのうちに「おぎゃ~、おぎゃ~」、生まれたのは男の子。

八五郎 「どれどれ、わあ、でけえなあ!鉢巻してうなってら」

産婆 「それは、おっかさんのほうだよ」、そりゃ大きすぎる。

八五郎 「女かい、男かい?」、「男のお子さんだよ」

八五郎 「男かい、ありがてぇなぁ。ちょいと歩かせろい!」 、安産と言うお目出度いお噺でございます。






塩竃神社表坂 《地図
表参道の202段の石段。その上に楼門まで25段の石段が続く。
塩釜街道②



金刀比羅宮(虎ノ門)



水天宮(日本橋蠣殻町2丁目)



谷保天満宮
落語『蜀山人



能勢妙見堂(墨田区本所4丁目)
魔除けの黒札は境内の鷗稲荷神社で毎年4月15日にもらえるようだ。



久米平内堂(浅草観音境内) 「説明板



濡れ仏(二尊仏・久米平内堂の後ろ側) 「説明板



おさん(於三)稲荷神社 《地図
民家の敷地内にある。阿三→於三→お産?



成田山新勝寺総門(平成20年建立)
成田街道④


 
双体道祖神(文化八年(1811)の建立)    子育地蔵(高円寺)
厚木市の坂④』                子どもを抱いている。


        

652(2018・2)
 
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