★あらすじ 息子夫婦に店をまかせた楽隠居。頭を丸めちゃいるが遊び心はまんまんだ。床屋の親方の所へ頼んであったカミソリ(剃刀)を取りに行く。今日は親方も暇そうで話がはずんで吉原へ繰り込もうということになった。
小料理屋で一杯やって、日ともし頃に大門をくぐった。適当な見世を見つくろって登楼(あが)った二人。籬(ませがき)と溝萩というおいらん(花魁)を見立てる。酒、料理が運ばれ酒癖の悪い親方はおいらんにからみ始める。「・・・さっきから見てりゃあ、お高くすましていやがる。・・・いい気になりゃあがって、てめえたちはおいらんなんて面じゃねえ・・・」と、悪口雑言の連発。
隠居が「まあ、まあ、・・・」と止めると、「やい隠居、やけに女の肩持つじゃねえか」と、からみ始めた。隠居「いい加減しなさい。悪い酒だ」、親方「何を言いやがる。この禿(はげ)頭!」で、手がつけられない。親方「まずい酒に料理、おまけにくそ坊主に説教されたんじゃたまんねえ、俺はほかへ行く」と言って出て行ってしまった。
すっかり座も白け切ってしまって、もうお引けということにする。すると、「籬さーん」と呼ばれて、おいらんは出て行ってしまった。隠居は酔いも手伝ってぐっすり寝てしまった。
夜中に目を覚ました隠居、今日ぐらい嫌な思いをした日はない。酒癖の悪い親方からは喧嘩を吹っ掛けられるし、おいらんは出て行った切りで、遊びに来てこんな所で一人で寝ている。あァ嫌だ、嫌だと後悔するのみ。
しばらくするとドタンバタンを大きな音がしたと思うと、いきなり障子がガラッと開いて、へべれけに酔ったおいらんが入って来て、隠居の寝ているそばにばたりと倒れてぐーぐーと大いびきで寝てしまった。
鼻から提灯を出して寝ているおいらんを見ていると、むらむらと怒りが込み上げて来る。うっ憤晴らしに、目が覚めてびっくりするようないたずらをしてやろうと考え始めた隠居。「そうださっき受け取った剃刀でおいらんの片方の眉毛の落としてやろう・・・」で、カミソリの切れ味を試した。薄い眉毛はすぐに剃れてしまって面白い顔になったが、剃りがいがない。
そしてもう一方の眉毛からもみあげへと進み、ついにはすっかり剃り上げてクリクリ坊主にしてしまった。「あぁこれでさばさばした」だが、調子に乗り過ぎたと後悔し始める。
見つからないうちにと隠居はこそこそと脱出をはかる。階子(はしご)の下までは無事たどりついたが、若い衆に気づかれ、「おや、お帰りさまで? おいらんは、どなた・・籬さんで? ただいま呼びますのでちょっとお待ちを」
隠居「呼ばなくともいいよ。寝かせといてやりな。・・・すぐ帰るから履物出しとくれ」で、帰ってしまった。
若い衆は客が帰ったのも知らないでまだ眠っているおいらんを起こしにかかる。「ちょっと、籬さん、籬さん」、やっと気づいたおいらんが、にゅーっと立ち上がった姿は、赤い唐縮緬の長襦袢に浅黄の唐縮緬のしごきをしめた坊主頭で、まるでほうずきの化け物だ。
隠居の姿が見えないので障子を開けて廊下に出た拍子にすべって転んで柱に頭をぶつける始末。
おいらん 「おお痛い」と、頭をすーっと撫でて、「あら、いやだ。お客さんはまだここにいまさあね」
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