「不精の代参」


 
あらすじ 不精者の所に能勢の妙見さんへ月参りの代参に行ってもらおうと友達がやって来る。不精者は中途半端な格好でまだ寝ている。起きようと思ったら足の指がふとんの破れに入ってそのままでいるという。
 代参を頼むと、不精者は断るのが邪魔くさいから行くという。友達は賽銭と蝋燭(ろうそく)代を不精者の着物の袂に入れ、いらないという弁当の包を首へくくりつける。不精者は能勢の方を向いて、後ろから友達に突いてもらって、いざ出発となる。

 大坂から淀川を渡り、十三から神崎川を渡って北へ、能勢街道を三国、岡町、池田を過ぎ、妙見さんの急坂を上って行く。その早いこと。『慶安太平記』の善達坊主ほどではないが。

 南無妙法蓮華経の声が聞こえてきてもう少しと馬力をかけたら入り過ぎて、賽銭箱の前の参拝者にぶつかってようやく止まった。これ幸いと、不精者は袂から賽銭と蝋燭代を出してもらって、そのうえ、「代わりに拝んどおくなはるか」と代参の代読と図々しい。

 これで代参の役目は終わりと、不精者は「ちょっと、わてをもと来た方に向けて、トーンと突いておくれ」。いい加減腹が立った参拝者は力まかせに背中をポーン突いたものだから、下りとなってスピードが出て首に吊るした弁当の包が顎(あご)の前にぶらついて下が見えない。邪魔くさい弁当、誰かにやってしまおうと思っていると、編み笠を被った男が口をダラッーと開けて上って来た。

不精者 「おーい、下から大口開けて上って来る奴ー」

編み笠男 「南無妙法蓮華経・・・俺のことか!」

不精者 「そや、お前腹が減ってんのやろ。わいの弁当やるから食うてくれー」

編み笠男 「腹なんか減っちょらん。そんなもん食うのん、邪魔くさいわい」

不精者 「そななんで、口ダラーと開けてんのや」

編み笠男 「笠の紐がゆるんだんで、顎で止めてるのやわい」



  
能勢妙見

  

桂枝雀の『不精の代参【YouTube】




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