★あらすじ 出っ歯の吉蔵、”でば吉”が兄貴分の三木屋の吾助のところへやって来て、「嫁はんをもらうから六十両を出してくれ」と言い出す。死んだ吉蔵の親が吾助に百両預けてあるのだ。吾助が相手は誰かと聞くと、
吉蔵 「ミナミの”みやこ”という店の小照という女や」
吾助 「やっぱりそうか。お前だまされてるねん。あいつには間夫がおる。兄貴と称している男や。こないだ小照の店で二人が話しているのを立ち聞きしてしもたんや。兄貴ちゅうやつが、”おい、頼んどいた五十両でけたんか?”、”もうじき船場の吉蔵、でば吉が持って来ると思うねん”、”あんなやつにそんな大金が出来るわけないやろ”、”吉蔵は兄貴分の吾助が出してくれるから、その金でわてを身請けする言うてた”、どや、あんな女やめとけ」
吉蔵 「小照はそんな女やありゃせんがな」
吾助 「ほんなら、これから小照のとこへ行って、”人殺してきたから死なんならん、一緒に死んでくれ”言うて、この火鉢の灰を紙にくるんで、”これ毒薬や、半分づつ飲もう”言うてあいつの気持ち試してみな。あいつが飲みよったら性根が見えた、おれのとこへ連れて来い。お前の女房にしたる」
早速、吉蔵は小照のところへ行って話すと、
小照 「急に死ぬちゅうても、わては用意もあるし、・・・そならあんた先に千日の墓原へ行って待ってておくれ。すぐに後から行くよってに」、「そんなら、待っとるで」、吉蔵は小照の頭から簪(かんざし)をひょいと抜き取っって出て行った。
小照は店の喜助に相談すると、
喜助 「アホなことしなはんな。そんなとこ行かんと放っときなはれ」
小照 「そやかてでば吉のやつ、簪抜きよった。あれ高いねんがな」
喜助 「そなら薬一緒に飲む時に、エヘンと咳払いしなはれ。そたらすぐにわしが飛び出して連れて帰るよってに」、ということで千日の墓原へ行って、いよいよの時に何べんも咳払いをしても喜助は現れない。
もうこれ以上待っては死ぬ気などないことがでば吉にバレてしまうと、
小照 「あんた先に飲んでおくれ。男ちゅうもんは薄情やさかい、わてが死んだらあんた逃げるかも知れん」、とうとう先にでば吉に飲ませてしまった。偽せ毒薬を飲んで、
吉蔵 「ああ、体がしびれてきた。お前も早よ飲めや・・・」と、死んだふりだ。
小照 「わてもすぐ行くさかいに・・・」、やっと喜助が来て、「死んでまっか」、
小照 「死によった。簪取り返さんと・・・」
喜助 「・・・懐の中でギュッと握りしめてますわ。あきらめなはれ」
小照 「相手は死人や。指一本づつ折りいな。痛いことあらへん」、やっぱり女は鬼だ魔物だ。
喜助 「ありゃ、指折る言うたら、手ぇ離しよったで」、簪どころか小照は奪衣婆のように財布から何から身ぐるみ剥いでとんずらしてしまった。
泣き泣き吾助の家に飛び込んで来たでば吉に、
吾助 「どや、小照は本性現したやろ。よっしゃ、仇取ってやろう」、吾助は小照と喜助が千日の墓原を通るように段取りして、そこへでば吉の幽霊を出させる。
「うらめしい~・・・」、「きゃあ~」と小照は目を回し、びっくりした喜助は一人で逃げて行ってしまった。こないだの仕返しと、でば吉と吾助は小照を身ぐるみ剥いで帰ってしまった。
店に逃げ帰った喜助だが小照のことが心配になって、若い者を引き連れて墓原へ戻る。裸で倒れている小照に、
喜助 「おい、小照さん、しっかりしなはれ!」、もうろうとしながら、
小照 「ゆ~れん、幽霊や・・・」
喜助 「なに、にゅ~めん・・・」
小照 「でば、でば、でば吉や・・・」
喜助 「でば、出刃で切られた・・・」
小照 「ど、ど、毒薬や・・・」
喜助 「極楽や?何言うねん。ここは地獄の千日の墓原や」
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