「胴斬り」

 
あらすじ 夜更けに風呂帰りの大工の竹さん中之島あたりをブラブラと歩いていると、後ろからついて来たが追い抜きざまに、で「エィ」と居合抜き、竹さんの体は真っ二つになりはそばの天水桶の上に乗ってしまった。 

 新身(あらみ)の刀で試し斬りをした侍は新刀の切れ味に満足して、何事もなかったように謡いながら去って行った。

 一方、辻斬りあった竹さんはたまったもんじゃない。体は上下に泣き別れ、そばにはあるが手が届かない。天水桶の上の胴は、「早よ帰らんと嫁さん心配しとる・・・」なんて呑気なことを言っているが動けないので誰か来るのを待つしかない。

 しばらくすると運のいいことに友達の又さんが酔っぱらってけったいな歌を歌いながらやって来た。すると暗がりから、「又はん、又はん」と呼ぶ声。前にも後ろにも姿はない。怖がり屋の又さんはその場に立ちすくして小便ちびる有様だ。

 やっと天水桶に乗っている竹さんの胴に気づいた又さんはことの顛末を聞いて、胴を背負い、フンドシをつかんで足を引っ張って何とか竹さんの家にたどりついた。

 かみさんのお咲さんは、竹さんが酔ってかつがれて来たものと思ったが、胴と足は別々、足が勝手に歩いているのを見て、「足が足で歩いているわ」なんて、事の重大さが分かっていないのか、ショックで脳みその働きが停止してしまったのか。又さんは、「とりあえず今日は遅いよって、また明日にしよ」と、言って帰って行った。

 翌朝、心配しながら竹さんが来ると、お咲さん「何の苦しみもおまへん。まことに達者で、うちの人が大きな声で歌うと、足が合わせて踊りまんのんや」、なるほど竹さんを見ると元気でひと安心して、
又さん 「もう、その体では大工は無理や。どや、桜湯の番台に座ってみいへんか。ジーッと座っているだけの仕事や」

竹さん 「おおきにありがとさん。わては一度はあそこへ座ってみたいとかねがね思うて・・・」と、呑気と言うか、前向き、積極的というか。すると聞いていた?足がバタバタと騒ぎ出した。

竹さん 「弟はどうしまひょ?」

又さん 「お前に弟がいるとは聞いてやへんが」

竹さん 「そこの足でんがな。血肉を分けた兄弟や。こんなに元気で・・・」

又さん 「そや、上町の麩屋(ふや)にぴったしや。麩踏む職人一人世話してもらいたいて、頼まれてたんや」、それなら万事好都合、二人前の給金は入るし、お咲さんも亭主とはいえけったいな二人?といつも顔?を合わせずともすむ。早速、胴は胴で風呂屋の番台へ、足は足で麩を踏む職人になって取り合えず一件落着。

 二、三日後、又さんは竹さんの様子を心配して風呂屋に行く。「店の主人も奥さんも親切で、ここに座っているだけで、ご飯も仕事も寝床も一緒、こんなええとこ世話してもろて、ありがとさん又やん。もっと早よ、辻斬りに逢わなんだかとつくづく思う今日この頃・・・」、いやはやこの能天気、いや生命力には恐れ入る。

竹さん 「弟の方はどうでっしゃろ」

又さん 「向こうの方が心配やので、これから行くのや」

竹さん 「そなら言付けを一つ願いたいんやが」、「なんやねん」

竹さん 「慣れん仕事で、湯気で目がかすむさかい、三里に灸(やいと)据えるように言ってくなはれ」、なるほど納得、又さんは麩屋へ行く。

麩屋 「ええ職人さん世話しとくれなはったなあ。よそ見も無駄話もせんは、ご飯も食べずに朝から晩まで麩踏み通し、働き通しですわ。あんなんのあと五、六組おまへんかいな」、又さんは口入屋ではないのだが。

  奥で麩踏んでいる足のところへ行くと、「お越しやす。又はんでしゃろ」
又さん 「お前、物言えるようになったんかい?」

竹さん(足) 「ええ、お蔭さんでおとついあたりからボツボツと」

又さん 「そりゃ結構なこっちゃ。番台の兄貴から、目がかすから三里に灸すえてくれと、言付けを言い使って来たのや」

竹さん(足) 「なるほど分かりました、ほならわても兄貴に言付けを一つ」

又さん 「何やんねん?」

竹さん(足) 「水やお茶あんまりガブガブ飲まんように言うとくなはれ・・・小便近うなってしょうがおまへんのや」



    
 
  

桂枝雀」の『胴斬り【YouTube】



中之島公園
中之島は東西約2kmのオフィス街で20の橋が架けられている。



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