★あらすじ 富くじに狂っている八五郎。夢で梯子(はしご)の上に止まっている鶴を見て、鶴は千年、梯子は八百四十五で、千八百四十五番の札を買えば千両に当たるんじゃないかと、夢みたいなことを考える。
八さんは女房の着ていた一張羅の半纏(はんてん)を脱がせ、質屋に無理を言って一分の金を作り、湯島天神へ富くじを買いに向かう。
途中、大道易者に夢のことを話すと、「鶴の千まではよろしいが、上から八百四十五番はまずいな。梯子は上りの方が肝心だ。下から五百四十八番と上がらなくちゃいけない」との判断。なるほどと納得した八さん、鶴の千五百四十八番の札を買った。
川柳に「一の富どっかの者が取りは取り」、「富くじの引き裂いてある首くくり」。さあ、八さんの運命はどっちだ。まあ、首をくくってしまったら怪談話くらいにしかならないが。
湯島天神で一の富の千両に突き上げられた札はなんと、「鶴の・・・・千五百四十八番・・・千五百四十八番」で大当たり。
腰を抜かした八五郎、来年の二月末まで待てば千両丸ごと貰え、今すぐだと八百両だと言われるが、来年なんて悠長なことは言っていられない。八百両貰って長屋へまっしぐら。初めは信じなかったかみさんも現ナマを見て腰を抜かしそうになる。
かみさんはすぐに、春着の一枚と珊瑚珠の三分珠をねだるが、そんなのは朝飯前、屁の河童と大請け合い。八さんは溜まっている店賃を払いに大家のところへ行く。大家は全額即金で払うと言う八さんを、何か悪事を働いて作った金と疑うが、富くじに当たったと聞いて大安心。さらに八さんは大家のばあさんに二分の小遣いを大盤振る舞い。
次に八さんは裃(かみしも)一式を買い、刀屋で五両の刀を買う。さあ、いつもの年の暮れなら掛取りを断る算段に追われ、正月の用意など二の次の八さん夫婦だが今年は違う。借金取りはゼロ。大晦日には餅屋が餅を、酒屋が籠被り(こもかぶり)の樽酒を、魚屋が新鮮な魚を、世辞、べんちゃらを言いながら届けに来る。
そして待ちに待った正月の朝、八さんは裃を付け、刀を差して大家のところへ年始回りに行く。
八さん 「おめでとうござんす」
大家 「裃姿で、おめでとうござんすはないだろ」
八さん 「そういうもんかねえ。じゃあ何と言えばいいんで」
大家 「明けましておめでとうございます。旧年中は・・・・本年も相変わらず・・・お願いいたします。ぐらいのことを言えば十分だ」
八さん 「もっと短くて気の利いたあいさつはねえんで」
大家 「”御慶”なんてのはどうかな。”銭湯で裸同士の御慶かな”なんて句もある。”おめでとう”ということだ。年始回りに行った家で”どうぞお上がりください”と言ったら、”永日”と言えばいい。後日いずれまたということだ」、いいことを教えて貰ったと八五郎、早速、手当たり次第に”御慶”、”永日”を連呼して行く。
向こうから虎公、半公、留公がやって来た。「やあ、八公、たいそうな身形(なり)をしやがって。大当たりだそうじゃねえか。おめでとう」、続いて半公、留公も「おめでとう」、「おめでとう」
八さん 「えへへへへ、三人でおめでとうときたな。よーし、三人まとめて、御慶!御慶!御慶!」
虎公 「おいおい何だ、鶏が卵を産むような声出しやがって」
八さん 「御慶(ぎょけい=どけえ=どこへ)といったんだ」
虎公 「ああ、恵方参りよ」
|