「かつぎや」


 
あらすじ 度を越して縁起をかつぐ呉服屋の旦那五兵衛さん。正月に権助を呼んで、「吉例によって井戸神様に橙(だいだい)を納めることになっている。あら玉の年立ち返る朝(あした)より若やぎ水を汲みそめにけり、これはお年玉、こう言ってこの橙を入れて来なさい」。

 権助は「目の玉のでんぐり返(け)える朝より末期の水を汲みそめにけり。こりゃあ、お人魂・・・・」と言って井戸に橙を入れて、旦那に大目玉を食う。権助は庭の植込みから手を合わせ、「草葉の陰から拝んでいるから勘弁しろ」と、正月早々旦那をおちょくっている。

 旦那は定吉が持ってきた年賀の品を帳面に付ける。
定吉 「では、伊勢屋の久兵衛さん、次は美濃屋の善兵衛さん・・・」

旦那 「そう長たらしく言わないで、略して伊勢久さん、美濃善さんとか言いなさい」

定吉 「へい、ではあぶくと願います」

旦那 「誰だいそれは」

定吉 「油屋の久兵衛さんで」

定吉 「次は津波で」

旦那 「誰だいそれは」

定吉 「津軽屋の波兵衛さんで」

旦那 「津波はいけないねえ」

定吉 「お次はできしで」

旦那吉 「おいおい、津波の次が溺死か」

定吉 「出島屋の岸兵衛さんで」、さらに、しぶとう(死人)が渋屋の藤兵衛で、ゆかん(湯灌)が湯屋の勘蔵、せきとう(石塔)が関口屋の藤吉で、旦那は頭が痛くなって来た。

 番頭が気をきかして定吉に替わり、「鶴亀と願います。鶴屋の亀吉さんでございます」、「次は琴平屋の武吉さんで、ことぶき(寿)となります」で、旦那の機嫌は直った。

 「お宝、お宝」と七福神の宝船の絵を売りに来た。枕の下に敷いていい初夢を見るのだ。
旦那 「宝船は一枚いくらだ」

船屋 「へい、四文(しもん)でございます」、十枚で四十文(しじゅうもん)、百枚で四百文(しひゃくもん)と、船屋はどこまでも縁起の悪い言い方をする。旦那が買わないから帰ってくれと言うと、

船屋 「・・・覚えてやがれ、近えうちにてめえんとこのひさしで首くくってやるから・・・」と捨て台詞をはいて出て行ってしまった。

 困った番頭は裏口から出て別の船屋を見つけ、縁起の悪い言葉は言わないようにと念押しして店へ連れて来る。
旦那 「一枚いくらだ」

船屋 「へい、四文(よもん)でございます。十枚で四十文(よじゅうもん)、百枚で四百文(よひゃくもん)でございます」。

すっかり喜んだ旦那「うれしいねえ、全部買うとするか、どのくらいある」

船屋 「旦那のお年ほどございます」

旦那 「わたしの年の数ほどとは?」

船屋 「八百枚ほどで」、船屋はすっかり旦那の懐に飛び込んでしまって、祝儀までもらっている。

さらに船屋 「旦那さま、お宅様では七福神がお揃いですな」

旦那 「嬉しいことを言ってくれるな。どこに揃っているんだ」

船屋 「えー、旦那さまがニコニコ恵比寿顔でいらっしゃいます。それから先ほどあちらにお顔が見えましたお綺麗なお方は、お嬢様で・・・それで弁天様と、これで七福神が揃いました」

旦那 「えっ、恵比寿と弁天ではまだ二福じゃないか」

船屋 「ご商売が呉服(五福)でございます」



        



三遊亭圓之助(三代目)の『かつぎや【YouTube】

上方落語では『正月丁稚』となる。






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