「掛取り」

 
あらすじ 掛取りが大勢押し寄せる大晦日、熊さんは金を工面しようと町内を回るがどこも火の車、金を貸してくれる家など皆無だ。

 家に戻った熊さんは女房のお咲と相談する。去年は熊さんが死んだことにして借金取りをあきらめさせようとしたが、お咲の番茶の偽涙を見破った呉服屋は笑って帰ってくれたが、、家主は本気にして泣きだし、屋賃を棒引き香典までくれようとした。お咲が香典までは厚かましいと遠慮したら熊さんがむっくり起き上がって、「もらっておけ」で、家主は腰を抜かし未だに病院通いだ。

 今年はその手は使えず、熊さんは借金取りの好きな物で、撃退しようという。お咲さんは上手くいくか半信半疑だが、路地からクラシック音楽好きな自称、モーツァルトの生まれ変わりという洋服屋が入って来た。早速、「フィガロの結婚」の「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」)の替え歌で出迎える。

洋服屋 「今日は大晦日やきっちりと払ろてもらいまひょ」

熊さん 「アレグロの金は大したことない・・・、ショパンの事情が重なって、あっチャイコフスキー、こっチャイコフスキーしてるうちに、今日でクレッシェ ンド。 財布の中はカラヤン・・・・」

洋服屋 「バッハなことを言うな、このリストを見てみぃ、おまはんの借金が一番フェルマータ になった・・・・今日はバルトークなはれや」

熊さん 「来年になったらハイドンどんと働いて、耳を揃えてまとめてドビッシーと返しますんで、今日のところは帰ってクレメンティ

洋服屋 「まあ、今日のところはサリエリとしましょ。また来マスカーニ〜」

熊さん 「ご機嫌よろシューマン、ご機嫌よろシューマ〜ン・・・・」と大成功だ。

 次に来たのが喧嘩好きな酒屋、これは容易い。割り木を持って立ち向かい、「無い袖は振れん、石川五右衛門でも無いもんは取れんのだ」と喧嘩腰に出ると、酒屋はたじたじ。もうひと押し、「やる気かおい。わずかばかりの目腐れ銭、それぐらい欲しぃんか」と追い打ちをかけると、「要らんわい!」と退散して外でくやし涙にくれている酒屋。

 続いては芝居好きの醤油屋だ。 「よぉよぉ、よぉ〜、待ってました、お掛け取り様のお入 りぃ〜」 と芝居がかりで出迎える。魂胆を見抜いた醤油屋だが、この芝居に乗らないと、「芝居心がない奴ちゃ」と言い振らされても癪なので、芝居がかって「月々溜まる味噌・醤油の代金、積もり積もって二十三円六十と五銭。再三、丁稚定吉を使わし催促いたせど、いっかな払わぬ。今日こそは大晦日、きっと算用いたしてよかろぉぞ」とまんまと計略に乗っかって来た。

(芝居調で)
熊さん 「恐れ入ったるご催促。が、その言い訳はこれなる扇面(せんめん)」

醤油屋 「何、扇なもって言い訳とな?」

熊さん 「雪晴るる比良の高嶺の夕間暮れ花の盛りを過ぎし頃かな・・・・」

醤油屋 「こりゃこれ、近江八景の歌。この歌もって言ぃ訳とは?」

熊さん 「こころ矢橋にはやれども、頼む方さへ堅田より、この身に重き雁金の、明日日(あすび)に迫る痩せ瀬田い、元手の代(しろ)は尽き果てて膳所はなし。 貴殿に顔を粟津なら、今しばらくは唐崎の・・・・」

醤油屋 「んッ””てくれい、という謎か?」

熊さん 「今年も過ぎて来年の、花の盛りを過ぎてのち、あの石山の秋の月・・・・」

醤油屋 「九月半ばか?」

熊さん 「三井寺の鐘を合図にきっと・・・・」

醤油屋 「うん、必ず算用いたすであろうな?」

熊さん 「まずそれまではお掛け取り様」

醤油屋 「この家(や)の主(あるじ)。明春お目にかかるでござろぉ〜・・・・」と、六方を踏んで帰って行った。

 ワァワァ言いながら年が明けます「かけとり」というお笑いで失礼をいた します。



      


三遊亭圓生の『掛取り【YouTube】


   

唐崎の松 《地図

「野ざらし紀行」には、「辛崎の松は花より朧にて」
万葉集には、「楽浪(さざなみ)の 志賀の辛崎 さき幸くあれど 大宮人の 舟待ちかねつ」(柿本人麻呂) 

   堅田の浮御堂 《地図



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