「鼻ほしい」


 
あらすじ 裏長屋で手習いの師匠をしている浪人、病気で鼻が欠け言葉が鼻に抜けてしまう。読み書きを教えても、何を言っているのがよく分らず、子どもたちからは、「鼻欠け先生」、「フニャフニャ先生」なんて馬鹿にされ、最近は恥ずかしがって外へも出ずふさぎ込んで、引きこもりの毎日。

 心配した妻女は気晴らしに箱根へでも物見遊山の旅に出るように勧める。東海道を西に気楽に歩いていると、見知った人もなく、街道の風景を眺めながら歩いて行くと、自ずから気が晴れ晴れとしてくる。

 鈴ヶ森あたりで、年を取った馬子の馬に乗って揺られて行く。馬子の頭を見ると綺麗さっぱりと禿げている。余裕の出て来た浪人は、「はぎやま(禿山)のみゃえ(前)に鳥居はなけれども うひろ(後ろ)にかみ(神・髪)がひょっとまひまふ(ちょっとまします)」、とからかった。

 すると馬子も浪人の顔見上げて、「だんなさんよぉ、わしも一つ返すべえ。けども、怒っちゃいけねえよ」

浪人 「おぉ、さようか、怒らんからやってみろ」

馬子 「山々に名所古蹟は多けれど、はな(花・鼻)のねえのが淋しかるらん」、馬子にまで馬鹿にされるとはと、真っ赤になって怒った浪人、馬から下りて駕籠に乗って家に引き返してしまった。

 憤懣やるかたない浪人はこの話を妻女にすると、妻女は血相を変えて薙刀を小脇に抱えて飛び出そうとする。
浪人 「これ、女房、血相変えていずれへみゃいる」

妻女 「あなたに恥辱を与えた馬子を無礼討ちに参ります」

浪人 「ひそぐまい(急ぐまい)、雉(きじ)も鳴かずば撃たれみゃい、歌も詠ますば返歌もしみゃい」

妻女 「口惜しゅうございます」

浪人 「そなたは口おひいか、わひははにゃ(鼻)がほひい」

  



       




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