★あらすじ 江戸相撲へ修業に行っていた上方相撲の関取が3年ぶりに朝早く帰って来た。これを聞いた金さんが関取の顔が見たいとやって来る。
金さんは関取のおかみさんに、江戸での修業でさぞかし立派に大きくなっただろうと言うと、おかみさんはおっちょこちょいの金さんをからかってやろうと、
おかみさん 「3年ぶりに見違えるほど立派に、大きくなって帰ってきました。ズシン、ズシン、ベリバリボリバリと地響きをたて、大声で屋根の瓦は飛んでしまい、雨戸がはずれてしまいました。驚いて外へ飛び出した途端に大きな柱におでこをぶつけてしまいました。よく見ると関取の向うづねでした。背は2階の屋根より高く、頭は一斗樽のようで目玉は炭団くらいあります。家の中に裏の雨戸をはずして、這って入りました。帰る途中で牛を3頭踏み殺したそうです。朝飯を5升食べて、布団を3枚つなげて寝ていますが、へそまでしかかぶりません」、これを聞いた金さん、驚いて目を白黒させて帰って行った。
奥で休んでいた関取が出てきて、「”卑下も自慢”というたとえがある。江戸から帰りの三島の宿で、日本一の富士山の大きな姿を見て宿の女中に、”朝夕雲の上の大きな富士山が見られて姐さんたちは果報者だ”と言うと、”朝夕見ているとさほど大きく見えません。大きく見えても半分は雪でございます”、と謙遜した返事だった。それを聞いてかえって富士山が大きく見えた。”卑下も自慢”とはこういうことだ」、と意見する。
しばらくして町内の若い衆が訪ねてくる。金さんから聞いて、大きくなって戻ってきた関取を一目見たいという。
おかみさん 「いいえ、関取は今朝、小さく、小さくなって帰ってまいりました。蚊の鳴くような声で呼ぶので外へ出ると、”声はすれども姿は見えず、ほんにあなたは何とやら”でよく探すと下駄の刃の間にはさまっていました。頭は一口饅頭ほどで、目はあずき粒です。戸の節穴からスルッと、あぶら虫のように入ってまいりました。帰る途中で虫を三匹踏み殺したそうです。さっき朝飯を5粒食べ、座布団で寝ています」
これを奥で聞いていた関取、あまりの卑下に馬鹿馬鹿しく、いたたまれず大きなどてらを羽織って、ドスン、ドスン、大声をあげて出てくる。
おかみさんの話とは大違い、若い衆はびっくりして、こんなに大きく立派じゃないかと言うと、
おかみさん 「朝夕見ておりますとそんなに大きゅう見えません」
若い衆 「何をいうか、家の中いっぱいやないか」
女房 「いいえ、こんなに見えましても半分は垢でございます」
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