「反対車」


 
あらすじ 今川橋赤ゲットにくるまり、居眠りをして客待ちをしている人力車の車夫に声を掛け、万世橋から上野駅まで行ってくれと頼む。汚くて今にも壊れそうな車で、提灯はお稲荷さんからの無断借用の長い物。車夫は底が抜けるから腰を浮かせてままでいてくれと変な注文だ。

 やっと動き出したのはいいが、そののろいこと、若い車引きがどんどん追い越して行く。車夫は「若い者には花を持たせろ」と呑気だ。年寄りの車引きからも抜かれて行くが、「年寄りは先がないから、花を持たせろ」と動じない。これじゃ上野駅に何時着くか分からないので、急いでくれと言うと、車夫は「心臓が悪いので、走ると死んでしまうかも知れない、その時は身寄りがないので、弔いをお願いします」ときた。

 あきれ返った客は須田町あたりで下りて、別な若い車屋に「北へ行ってくれ」と頼む。まだ乗っていないのに走り出してしまうほどの威勢のいい車引きで、その車の速いこと、この間は急行列車を追い抜いたという。喋ると舌を噛み切るから黙って乗っていてくれと言われ、目をつむって歯を食いしばって乗って、しばらくすると目の前の土手にぶつかった。なんと赤羽の荒川まで来てしまったのだ。

 行過ぎたから南へやってくれと言うと、「あらョ」とまた走り始めた。猛スピードは相変わらずで、車夫は汗が目に入って前が見えない。どんどん走ってまた川にぶつかった。今度は多摩川だ。東京を北から南に縦断旅行した勘定だ。
客 「今何時だ、今夜上野の終列車に乗るんだ」

車屋 「午前の3時で」

 「じゃあ、終列車には間に合わない」

車屋 「その代わり始発列車には間に合います」





      





人力車(「明治物売図聚」三谷一馬より)



柳家喬太郎の『反対俥【YouTube】




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