「初音の鼓」A
★あらすじ 骨董好きの殿さまの屋敷に古道具屋の金兵衛が一儲けしようとやって来る。
三太夫が今日は何を持って来たのか聞くと、義経が静御前に賜ったという「初音の鼓」だ。
三太夫「これは珍しい、本物か」、金兵衛「まごうかたなき真っ赤な偽物で」と、平然としている。
金兵衛は、「この鼓を打つ時は、そばにいる者に狐が乗り移る」と言って、百両でこの鼓を殿さまに売りつけようと言う魂胆だ。
殿さまが高い金で買えば家宝といって蔵にしまったままになり、偽物だとバレる心配はないという計算だ。金兵衛は本物と信じさせるために、殿さまに鼓をポンポンと打ってもらい、三太夫にコンコンと鳴いてもらい、「コン」一声につき一両を払うという儲け話を三太夫に持ち掛ける。
三太夫は「武士に狐の鳴きまねをせよと言うのか」と怒りかけたが、金に目がくらみ喜んで金兵衛の企みに乗って、金兵衛を伴って殿さまの御前に出る。
金兵衛は世にも珍しき初音の鼓と差し出し、殿さまにお調べ下さいと申し出る。殿さまが珍しがって鼓をポンと打つと、そばの三太夫がコンと鳴いた。
殿さま 「いかがいたした三太夫」
三太夫 「前後忘却しており、何があったか一向に存じません」とおとぼけ上手だ。
殿さまがポンポンで、コンコン、ポンポンポン・・・・で、コンコンコン・・・・と調子を合わせて何十両分も鳴いて三太夫爺さんは大儲けだ。
殿さまは金兵衛の望み通りに百両で買い取ると言い、次の間で控えよと申し渡す。計算高い三太夫だが幾つ鳴いたか数えることができなかったと言うと、金兵衛は五十両づつの折半でと気前がいい。
しばらくして殿さまは金子を取らすからと金兵衛を呼び、鼓を打って見ろと言い出した。そばに三太夫がおらずに困った金兵衛だが殿さまの命令にはそむけず鼓をポンと打った。すると殿さまがコンと鳴いた。
金兵衛 「殿さま、いかがいたしました」
殿さま 「何であるか、前後忘却してとんと覚えがない」、金兵衛が「ポンポンポン、スコポンポン」と打つと、
殿さま 「コンコンコン、スココンコン」、金兵衛が「ポンポン・・・・・」と打って、
殿さま 「コンコン・・・・・ああ、もうよいぞ。本物の初音の鼓に相違ない。金子をとらすぞ」
金兵衛 「へい、ありがとうさまで」、と前に置かれた金を見るとたったの三両だけ。
金兵衛 「お代は百両でございますが」
殿さま 「三太夫と余の鳴き賃をさし引いてある」
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