「堀川」

 
あらすじ
 もとは立派な商家だったが、酒好きの道楽息子が店の身上を飲みつぶし、今では九尺二間の棟割長屋で、親子三人侘び住まいだ。毎夜、大虎になって帰って来る息子だが、そこは甘い母親、二度と家に入れるなと怒る父親をいつも「まぁまぁ」となだめるので息子の道楽は止まらない。

 一方、向いの家の職人の源さんは「飲む、打つ、買う」は一切やらずで、品行方正、親孝行息子と思いきや、喧嘩好き、火事好きの極道者で年老いたお母はんと二人暮らしだ。今日も、屋台のうどん屋の湯で足を洗い、布巾で拭かせ、うどんも食わずに唄いながら帰って来た。疲れてうたた寝しているお母はんの頭を蹴って、「文句があるなら立って勝負に来い」なんて言いようだ。それから晩飯の給仕をさせ、「肩揉め、腰撫で、足さすれ・・・」と、二十四孝の連中が見たら、真っ青になる光景だ。

 すぐに高いびきで寝入ってしまった源さんだが朝起きが悪い。無理やり起こすと、「うるさい、くそ婆あ」とパンチが飛んでくるので、一計を案じたお母はん、表を眺めながら、「まぁまぁ、人がたんと走りますが何ぞございましたんで? はぁ、坐摩(ざま)さんの前で心中が、男が二十で女ごが十九」と、源さんに聞こえるように独り言だ。

 「心中」の声が耳に入った源さんは飛び起きて出て行った。お母はんが朝飯の支度を終えた頃、源さんは戻って来た。心中騒ぎなんかなかったと怒る源さんに、「あれは、わしが十六の時の話や」と、とぼけて一件落着、源さんは朝飯を食って仕事に出かけた。

 次の朝も源さんは起きて来ない。お母はん、昨日の手は使えないと隣の佐助さんの所へ行き、「火事だ」と騒いでくれと頼む。一度、頼まれて源さんを起してこっぴどい目に会っているが、気の毒なお母はんのためと、佐助さんは「火事だ、火事だ」と叫ぶ。

 案の定、源さんは飛び起き、お母はんの胸倉を捕まえ、「火事はどこじゃ」、お母はんが思わず、「隣り裏だ」で、脱兎のごとく隣り裏の大工の松さんの家に乗り込んだ源さん、爺さんを遠くへ避難させるやら、大工道具を運び出すやらの大奮闘だ。朝飯時のてんてこ舞いの忙しい時に踏み込まれた松さん、何が何やら分からず茫然としている。源さんもやっとお母はんの仕業と分かり、散々引っ掻き回した松さんの家のことなど放ったらかして仕事へ行ってしまった。

 さて、翌朝は一休みと、お母はんは源さんを起さず、井戸端で洗い物をしていると、猿回し与兵衛さんが通りかかった。今日も、「牛に引かれて善光寺参り」ならぬ、猿に引かれて稼ぎに行くと言う。

 せがれはまだ寝ていると言うと、与兵衛さんが猿回しで起してやると家に行き、源さんの寝ているそばで唄で囃しながら猿回しを始めた。「♪起きたり、起きたり ・・・・♪日天さんがお照らしじゃ・・・・♪時間何時や知らぬんか・・・・♪近所の俥屋(くるまや)も、関東煮(かんとだき)、コンニャク屋も、飴売り、豊年屋も、皆々銭を儲けに行ってるのに、ふんぞり返って寝てるとわ ・・・♪金銭儲けるのが手柄じゃ、稼がんせ、職人の朝寝はコロリとやめ、コロリとやめ、源さん ・・・・」

 あまりのおかしさに起き上がった源さんは、「キッキッキ〜、こぉらおもろいわ。毎朝こないして起こしてくれるか」とすっかりご機嫌。朝飯を食って仕事に出掛けた。

 この様子を見ていた向かいの酒極道のお母はん、「アッハッハ、お爺さん見ましたか、向かいのせがれ、猿回しのえて公に起されて「キッキ〜」やなんて、猿になったような気持ちで出て行きよった。おもしろい、おもしろい」

父親 「これっ、人さんの息子はん笑うことありゃせん。おさんになって仕事行きゃぁ結構じゃないかい。うちのせがれ見てみぃ、毎晩、んなりよるわ」


 



林家小染の『堀川【YouTube】



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