「火焔太鼓」  古今亭志ん生

 
★あらすじ
 道具屋甚兵衛さん、今日も下手な商売をして客に逃げられてしまった。
おかみさん 「お前さん、もっとちゃんと商売しておくれよ。今入って来たお客がこの箪笥(たんす)は古いけどいい箪笥だなあって言ったら、ええ、あたしの店にもう六年もありますなんて言ったりして。六年も売れ残っているのをバラしてるようなもんだよ。そうだと思えば売らなくていい物を売ってしまったりして。この間も米屋の主人にうちの火鉢売っちゃって、寒くなったらお前さんが火鉢にあたりに米屋へ行くもんだから、米屋さん甚兵衛さんと火鉢、一緒に買っちゃったって・・・」 

甚兵衛 「うるせえなあ、いちいち、今日は儲かるもん買って来たから驚くなよ。どうでぇ、この太鼓だ」

おかみさん 「やだよ、この人は太鼓なんて際物はもっと目先の効く人が買うもんだよ。・・・あらまあ、古くて汚い太鼓だじゃないか。こんな物、売れやしないよ」

甚兵衛 「古いからいいんだ、儲かるんだよ」

おかみさん 「お前さん古いもんで儲けたことないよ。こないだだって清盛のしびん、岩見重太郎のワラジ、小野小町の杖なんて買って来たりして損したばかりじゃないか」

甚兵衛 「おい、定公、この太鼓よくはたいておけ」、定吉は面白がってドンドンと叩き始めて大きな音が出る。

甚兵衛 「こらぁ、叩くんじゃないよ、ホコリをはたくんだよ」、そこへこの音を聞いた侍が入って来た。

侍 「駕籠の中の殿さまがどういう太鼓であるか見たいとおっしゃっておる。その太鼓をお屋敷の持って参れ。殿さまがお気に召せばお買い上げになるかも知れんぞ」

甚兵衛 「どうだ、ざまあ見やがれ。この太鼓売れたじゃねえか」と、喜んで威張っているが、

女房 「殿さまは太鼓の音だけ聞いて見ちゃいないんだよ。あんな汚い大鼓と分かったら、無礼者、こんな汚い太鼓を持参しよってと叱られて、ただでは帰って来られやしないよ」と脅かされ、もし買うと言われても、仕入れた一分で売るように言われ、甚兵衛は恐る恐る太鼓を持って屋敷に向かった。

 太鼓を見た殿様はたいそうなお気入りで買い上げると言う。
家来 「いくらで売るか、商人は儲かる時には儲けないといけない。手いっぱい申してみろ」と言われ、甚兵衛さん両手を広げ十万両だ。

家来 「それは高過ぎる」、そりゃそうだ。結局、三百両で買い上げられることになった。甚兵衛がなぜあんな汚い大鼓が三百両にもなるのかと聞くと、火焔太鼓という世の名宝だという。

 急いで店へ帰ると、女房は甚兵衛が侍に追いかけられていると思い押入れに隠れろと言う。
甚兵衛 「売れたんだよ。あの太鼓、ざまあ見やがれてんだ」

おかみさん 「どうせ、一分で売れたんだろ。いくらで売るって言ったんだい」、「十万両」

おかみさん 「馬鹿がこんがらかっちゃったよ、この人は」

甚兵衛 「高過ぎるって言われて、三百両でどうかって言うから売ってきた」

おかみさん 「また、嘘ばっかり言って・・・じゃあ、見せてごらんよ、そのお金・・・」、甚兵衛さん、得意げに五十両づつおかみさんの前に並べ始めて、

甚兵衛 「どうでえ、これ見て座りションベンして馬鹿になるなよ。百両だ、おい、しっかりしろ、後ろの柱につかまれ。二百両だ」

おかみさん 「水を一杯おくれよ」

甚兵衛 「俺も水を飲んだ。もう少しだ我慢しろ」

おかみさん 「お前さんは商売が上手だねえ」

甚兵衛 「なにを今ごろ、どうだ三百両だ。儲かるだろ」 

女房 「嬉しいねえ、やっぱり音の出る物に限るね」 

甚兵衛 「そうだな、今度は半鐘を買って来る」 

女房 「いけないよ半鐘は、おじゃんになるから」




    
火焔太鼓(奈良県立図書館
       


古今亭志ん生の『火焔太鼓【YouTube】







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