「正月丁稚」




あらすじ 元旦の朝、丁稚の定吉かつぎ屋旦那から井戸にを、「新玉の年立ち返るあしたには若柳水(わかやぎみず)を汲みそめにけり」と歌を添えて供えて来るように言われる。寝ぼけ眼で戻って来た定吉は、「目の玉のでんぐり返る明日には末期の水を汲みそめにけり」と、縁起でもない歌を添えて来たと、旦那を正月早々からいたぶっている。

 店の者は新年の祝に大福茶を味わう。番頭が「大福や 茶碗の中に 開く梅」と、元日から旦那にべんちゃらを始める。太助どんも負けずに「大福や 茶碗の中に 匂う梅」だ。ちょっとしか変わってない盗作寸前なのに旦那はよくできた、目出度い、目出度いと喜んでいる。本当にお目出度い旦那だ。すかさず定吉は「大福や 茶碗の中に 昆布と梅干の土左衛門」と、縁起でもないことを言って待ったをかける。

 さあ、次はお雑煮だ。定吉は正月用の箸(はし)の真ん中が太いのは何故かと聞く。待ってましたとばかりに旦那は、「はじめはどこの家の身代も細いもんや。それが段々太くなる、その太なった所をしっかりとつかむのが、人間の運をつかむのと同じことだ」と、得意げに話す。定吉は「今は太くなっていても、先がまた細くなってまっしゃろ。若旦那の代になったらまた細なる」と、まことに尤もな言い様だ。

 ゲンの悪いことばかりを並べる定吉に、旦那は早く雑煮を食べてしまえと口封じに出た。がつがつと雑煮をほおばっていた定吉が突然泣き出した。上のが抜けたという。旦那は正月早々縁起でもないと顔をしかめるが定吉は、「下の歯が抜けたときは、目下のもんが死んで、上の歯が抜けたときは目上の人が死ぬ」と、おっ母さんから聞いていると言って旦那をニヤリと見上げ、旦那は青くなっている。定吉は口の中の餅をかき分けて歯を取り出したら、なんと五十銭銀貨だった。

 旦那は、「毎年お餅つく時に五十銭玉を放り込んで置くのや。それが当たったもんは、その年は運がえぇねん。定吉、お前は運がえぇぞ」とご機嫌になったが、今泣いた烏の定吉は、「の中からが出たら金持ちなるけど、の中からが出てんさかい、ここの身代持ち(餅)かね(金)る」と、また旦那を奈落の底へ突き落した。そこから引き上げるのが、よいしょ番頭の仕事だ。「雨が降って来たので裏を閉めました。裏閉め(=浦島)太郎は八千歳ではどうでっしゃろ」で、旦那の顔も明るくなった。さらに太助どんが「方々を閉めて、東方朔(とうぼうさく)は九千歳」と手を差し伸べた。皮肉屋の飯炊きの権助、女中のお清までも縁起のいいことを言ってくれて、旦那はすっかり機嫌良くなった。すると定吉が布団を持ち出して来た。また何か縁起でもないことを始めるのかと旦那は気が気でない。
旦那 「そんなとこへ布団持って来てどうしたんじゃ」

定吉 「へぇ、夜具(=厄)払いましょう」
 桂小南(菊正名人会)
収録:平成4年1月(一部改作)


   





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