「禁酒番屋」 春風亭柳好(四代目) 


 
★あらすじ ある藩で花見の宴の時に、若侍同士が武芸の腕前のことで口論となり酒の勢いも手伝い真剣の勝負となった。一人は斬られて死に、一方は酔いがさめて酒のうえとはいえ同輩を斬り殺したことを悔やんで切腹してしまった。一度に二人の若い家来を失った殿様は万事酒が悪いと思い、禁酒の定めを出す。

 藩の酒好きの連中は困ったが好きな酒はやめられず、外で飲んで酔いをさまして城中に帰っていたが、しばらくすると酔ったまま帰ってくるようになる。

 これを見かねた藩の上役たち、殿様に知れたら大変と城中への入口に酒を飲んでいるかどうか、城中に酒を持込む者はいないかを調べる検問所、禁酒番屋を設けた。

 城下の行きつけの酒屋に寄った藩の酒豪の近藤さん、一升酒を息もつかずに飲み干し、城内の自分の部屋に夕刻まで一升届けろと言って帰ってしまう。

 藩の禁酒令で困っているのは酒好きの武士ばかりでなく、城下の酒屋も商売上がったりで大迷惑、大弱りだ。酒は届けてやりたいが禁酒番屋があって通れないと、番頭が困っていると店の者が知恵を出す。横丁の菓子屋のカステラの箱に五合徳利を二本入れ、菓子屋の着物を借りて着て持って行くのだ。

 さて酒屋の若い者が菓子屋の格好で番屋に来ると、門番の侍が箱の中を調べるという。近藤さまへの進物のカステラだといい水引きを解くとバラバラになってしまって困るというと、門番の侍は「進物なら仕方がない、通れ」そこで喜んだ酒屋の若い者、うっかり「どっこいしょ」と酒の入ったカステラの箱を持ち上げた。

 これを聞いた門番の侍は見逃すはずもなく、中身を取り調べると言い出す。箱の中から徳利が現れ水カステラだなんて言い訳するがもう遅い。門番と同役の二人に酒を全部飲まれてしまい、「いつわり者めが、立ち帰れ」と一喝され店に逃げ帰る有様だ。

 おさまらない店の者、今度は油屋になり徳利に油を入れて持って来たなんていって酒を運んだがそうは問屋がおろさず、これも門番に見つかりすっかり飲まれてしまって一喝され逃げ帰る。

 番頭はあきれてもうよそうと言うが、若い者が二升もただ飲みされた仇討ちをするという。今度は小便を一升徳利に入れ、堂々と、「小便を持ってきた」というのだ。小便を小便といって持って行くのだから、「いつわり者め」はないといい、小便の入った一升徳利を持って行く。

 もう門番はすっかり出来上がっている。中身を取り調べるといい、徳利を持つと暖かく、「今度は燗がしてある、泡立っている」なんていって飲もうとしてやっと気づく。

門番 「けしからん、かような物を持参しおって」

酒屋の若い者 「だからはじめから小便だとおことわりして・・・」

門番 「小便は分かっておる、う〜ん、正直者めが」

 収録:昭和61年3月
文化放送「菊正名人会」


  


*渋くて地味だが、とぼけた味のある柳好のテンポのよい舞台です。
禁酒番屋の二人の侍が、水カステラと偽った酒で一升、油と偽った酒で一升飲んでだんだん酔いが回り、最後の小便の所では、もうへべれけの状態になってしまうのをうまく演じています。一人で一升づつ飲んでしまっているのだから、近藤さんだけでなくこの藩にはよほど酒好きが集まっていたのでしょう。
 禁酒の定めを出しても所詮、絵に書いた餅で効き目がなく、殿様も酒は百薬の長、人間関係の潤滑剤と思い直し、禁酒なんてつまらない定めを撤回せざるを得なくなったでしょう。
 武士に歯向かうところが「たがや」と同じで、この噺に目くじらを立てる人もいますが、落語の世界で溜飲を下げる庶民の話として十分に笑える噺です。
 落ちの部分の番屋の武士の言葉にも小便を持ってきた町民を斬り捨ててしまおうとするような考えはみじんもないようで、安心して聞いていられます。

柳家小さんの『禁酒番屋【YouTube】





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