★あらすじ 麻布古川の長屋の家主の幸兵衛さん。人呼んで小言幸兵衛。
今日も朝から長屋を小言で一回りだ。犬にまで小言を言い、家に戻ると婆さん、猫にまで小言だ。
長屋を借りたいと言葉使いのぞんざいな豆腐屋が来る。商売を自慢するが、幸兵衛さんは「豆腐は1升の豆から2升のオカラが出来るなんて、そんな理屈に合わない話があるか、まるで魔法使い、切支丹伴天連だ」とにべもない。子どもはいるかと聞くと、「ガキは小汚くて商売に邪魔になる。一匹もひりださないのが自慢だ」なんていう。
これを聞いた幸兵衛さん、子どもは子宝、さずかり物で「3年そって子なきは去るべし」、7年も子どもができない女房はさっさと離縁すべきだ、代わりに丈夫な女を世話してやるなどと説教する。
怒った豆腐屋、ノロケ混じりの啖呵を切り、「まごまごしやぁがると、どてっ腹け破って、トンネルこしらえて汽車ぁたたき込むぞ」と毒づいて飛び出して行った。これを聞いた婆さんが「するとおじいさんの胸のあたりがステンションだねえ」なんて呑気だ
入れ替わって来たのは仕立屋で、「仕立て職を営(糸)んでおります」なんて、口のきき方が丁寧で幸兵衛さんは気に入る。家族を聞くと女房と二十歳(はたち)の男前の一人息子がいるという。これを聞いた幸兵衛さん、心中騒ぎが起こる、「家は貸せない」という。筋向いの古着屋の一人娘のお花は19で器量よし。2人はいい仲になり、そのうちにお花のお腹がぽこらん、ぽこらんとふくらむ。お互い一人息子と一人娘、嫁にもらえず、婿にもやれずで、心中となるのは必定という。
心中となれば幕が開く。(芝居がかりになる幸兵衛さん)
「そこにいるのはお花じゃないか」
幸兵衛 「お前の息子はなんていう名だ」
仕立屋 「出渕杢太左衛門と申します」
幸兵衛 「そういうお前は、もくたざえもんさん・・・」、しまらないねえ。
いよいよ本舞台で「覚悟はよいかお花」、飛び込む時に手を合わせ「南無阿弥陀仏・・・・だが」
幸兵衛 「お前の宗旨はなんだ、法華か、”南妙法蓮華経・・・”、これじゃ陽気過ぎる。お花の家は真言宗で、”おん あぼきゃ べいろしゃのう・・・・”、これじゃ心中にならん」、仕立屋は呆れて帰ってしまう。
その次に入って来たのは色黒、ひげもじゃ、眼の玉がぎょろっとした男で、印半纏を裏返しに着ている。「家を貸せ!」と高飛車で威勢がいい。幸兵衛が家族を問うと、
男 「河童野郎と山の神と道六神だ、ガキとカカアとお袋のことだ」
幸兵衛 「お前の商売はなんだ」
男 「花火屋だ」
幸兵衛 「道理でぽんぽんいい通しだ」
|