「小いな」


 
あらすじ 日本橋本町二丁目の伊勢屋半兵衛柳橋の芸者の小いなと深い馴染みになっている。自宅へ小いなや幇間たちを呼んで騒ごうと、幇間の一八と示し合わせた作戦に出る。一八が半兵衛を新富座の芝居に誘いに来る。

半兵衛 「あいにく今日は都合が悪い、折角だから家内おきよ作蔵を連れて行ってくれないか」、女房のお千代と女中のおきよは大乗り気で、早速、めかしこんで出掛ける支度をしているが、半兵衛と小いなとの仲を知っている下男の作蔵は、なにか企みがあると見抜いて、

作蔵 「おらぁ、さっきから腹が痛くなって、とても芝居見物なんぞ行けやしねえ」

半兵衛 「そうか、仕方がない。代わりに店の藤助を連れて行きなさい」ということで、一八がお千代さんたちを引き連れて芝居見物に出かけて行った。むろん藤助も半兵衛とはグルなのだが。

 仮病で残った作蔵は、「おらぁ、ちゃんとお見通しだぞ。柳橋の小いなを呼んで、大騒ぎすべえという魂胆だべぇ」、そこまで底が割れていちゃ仕方ないと、小遣いを握らせ、

半兵衛 「ちょっと柳橋へ行って、こっちは準備ができたからすぐに来なさい、と言ってきてくれ」、合点承知の助と半兵衛の走狗と化した作蔵は柳橋へ急行し、小いなを始め、幇間の弥助たちを呼んで来る。

 さあ、飲めや歌え踊れのどんちゃん騒ぎが始まった。宴たけなわの頃、藤助が血相変えて飛び込んできて、「旦那、大変でございます。ただいま、芝居でおかみさんが急にお加減が悪くなりまして、すぐにお帰りになります」とのご注進だ。一八は風を食らって逃げて行ってしまったという。

 半兵衛たちはあわてて座敷を片付け、小いなをどこかに隠そうかとウロウロしている間に、お千代さんが帰って来た。

 お千代さん、玄関に散らばっている履物を見て、一目諒解、身体の具合の悪いことなどすっかり忘れて目尻を吊り上げ、血相変えて小いなたちが立ち籠る座敷に突進だ。中では全員で襖を押さえている。

お千代 「おきよ、早くその襖を開けなさい」

おきよ 「はい、・・・開きません。中で押さえています」、おきよが力まかせに把手(とって)を引っ張ったら取れてしまった。把手の穴からのぞいて、

おきよ 「まあ、ちょっと、おかみさん、中をご覧遊ばせ」、お千代さんが穴からのぞくと、座敷の中から、

弥助(幇間) のぞきからくりの節で、♪「ヤレ、初段は本町二丁目で、伊勢屋の半兵衛さんという人が、ソラ、おかみさんを芝居にやりまして、後へ小いなさんを呼び入れて、飲めや歌えの大陽気、ハッ、お目に止まりますれば先妻(先様)はお帰り」


    


        


新富座(三代目広重画・ウィキペディアより)

明治11年に新築開場した新富座(「文化デジタルライブラリー」)
大正12年の関東大震災で焼失し、再建はされなかった。



604(2017・12)




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