「からくり屋」


 
あらすじ 左官仙太は、不景気で仕事が少ないうえに、大飯食いということで親方から暇を出される。仙太は親方の一人娘のおつるといい仲になっている。仙太が暇を出されて今夜にも出て行くと言うと、
おつる 「あたしは、お前さんと別れるのはいや。どうか、一緒に連れて行っておくれ」、仙太は恩を受けた親方の一人娘を連れて出ることはできないと断るが、おつるの思いに負けて、

仙太 「そんなにお前さんが思ってくれるんなら、一緒に逃げましょう」ということになった。暗くなるのを待って、二人は親方の家を出たが、

おつる 「これからいったいどこへ行くの?」

仙太 「とりあえずあたしの伯父さんの家へ行きましょう」

おつる 「伯父さんの家はどこなの?」

仙太 「貧乏で名代の四谷の鮫が橋です」

おつる 「なんのご商売?」

仙太 「あんまり人中で大きい声で言えない、夜の商売で・・・」

おつる 「まあ、泥棒さんかい?」

仙太 「縁日の商人で、ドッコイドッコイのぞきからくりなんかやってます」

おつる 「ドッコイドッコイってどんなことするの?」

仙太 「真ん中にぶん回しがあって、それを回して針の止まったところに書いてある金花糖なんかの景品が取れるんです」

おつる 「面白そうね。あたしもお店番がしてみたいわ」

仙太 「大きな声で怒鳴るんですよ。さあ、お張んなさい、お張んなさい、張って悪いは親父の頭、張らなきゃ食えない提灯屋、グルグル回っているうちがお楽しみ、さあ、張らなきゃ損、損、・・・こんな調子で・・・」

おつる 「面白いわねえ、のぞきからくりっていうのはどういうの?」

仙太 「ほんとに、のぞきからくりも知らねえですんかい。縁日の中でも真打の大将格ですぜ。小さいのぞき眼鏡がいくつも並んでいて、それを覗くと八百屋お七や何か、いろんな絵が描いてあって、糸で引っ張るとストトン、カラリと絵が代わるんだ」

おつる 「やっぱりさあ、お張んなさい・・・って言うの?」

仙太 「からくりの口上は節をつけて歌うんです」、「どんな、節?」

仙太 「駆け落ちしながらからくりの口上なんて・・・」

おつる 「そんなこと言わないで、サワリのところをちょこっと」

仙太 「サワリだなんて・・・ほんの少しですよ。♪ハッソラ~、お寺さんはぁ、駒込の吉祥寺・・・、ソラ~、茶の湯座敷のつぎの間で・・・ソラ~、学問なさる後ろから、ソラ~、膝でつついて目で知らす・・・ソラ~、ガッタン・・・」

おつる 「おほほほ、面白いわねえ」と、無邪気で他愛もない。鮫が橋の貧乏長屋にやって来て豆腐屋、屑屋、占者、羅宇屋、下駄の歯入れ屋などが住んでいるところを通って伯父さんの家に着いた。

 夜遅くに親方の娘を連れて来た仙太を見て、びっくりして訝しがっている伯父さんに、仙太は事の顛末を話すと、
伯父さん 「親方はお前は大飯を食うが、それ以上にいい仕事をするから末にはいい職人になると言っていた。それが今になって暇を出すとはどういうわけだ。よし、おれが明日の朝、親方のところへ行って話をつけてきてやるから心配するな」、ということで二人は安心して寝てしまった。

 一方の親方の家ではおつるがいなくなったので夜通しで大騒ぎ。そこへ伯父さんがやって来て、
伯父さん 「・・・お嬢さんを仙太の嫁に下さるか、仙太を婿に取って下ださるか、・・・二人は夫婦になれぬのなら淵川にでも身を投げようと・・・(ドッコイ屋の口調で)、♪もうし、もうし、親方さん、ご思案なさる場合じゃありません。おかみさん、ぐずぐずなすっていると二人の者が玉なしだ。ご思案はご損です。さあ、さあ、お張んなさい・・・・・・グルグル回っているうちがお楽しみ・・・さあ、張った、張った。ご思案はご損ですよぉ

親方 「こりゃあ、ドッコイ屋で掛け合いとは恐れ入りやした。だが、仙太は馬鹿馬鹿しい大飯ぐらいで、おつるは大事な一人娘、嫁にはやれず、婿にもできやしません」

伯父さん (からくり屋の節回しで)♪「ハッソラ~、おっしゃるところはごっもとも、・・・朝に三膳、昼三膳、ハッソラ~、夜が四膳は職人衆のお定まり・・・一緒にさせてくださいな・・・、ガッタン」

親方 「お前さんがどんな掛け合いをしようとも、(からくり屋の口調)♪婿にはぁ、取れませ~んよ」

伯父さん ♪「ハッソラ~、婿に取ってくだぁさいな」

親方 ♪「いいえ、婿にはぁ、取れませ~んよ」、そばから、おかみさんがおはちをぐいっと突き出し、
「ハイッ、仙さま(先様)はおかわり」


  

 サゲは、のぞきからくりの最後に後の客と交代と言ったのと、仙太がご飯をお代わりするという意味。


のぞきからくり
八百屋お七【YouTube】 
丸い穴からのぞく



のぞきからくり(職人尽絵詞)
下の三人がのぞいている。



ドッコイドッコイ(「江戸時代のおもしろ珍商売」より)



左官・植木屋
歌川国輝: 「衣喰住之内家職幼絵解之図


        


鮫河橋坂 《地図
旧鮫河橋仲町一帯は、昭和の初め頃までは貧窮世帯の密集地として知られていた。
「四谷鮫河橋は芝新網下谷山伏町と並びて、
東京市中に於ける三大貧民窟と称せられる・・・」(新撰東京名所図会)
また、下級な街娼の供給地でもあった。
「花散る里は吉田町鮫ヶ橋」(柳多留)で、花散る→鼻散るで、
本所吉田町(墨田区石原4丁目一帯)は街娼、夜鷹の巣窟として有名だった。
鮫河橋」(『江戸名所図会』)


581(2017・11)




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