「高津(こうづ)の富」 桂吉朝


 
★あらすじ★ 大川町の一軒の宿屋に、因州鳥取の在の大金持ちと自称する五十五、六才位のおっさんが泊めてくれと来る。二万両の金の取引きで出てきたという。大きなことばかりを並べ立てるおっさんだ。
この前屋敷に賊が18人押し入り、夜明けまでに千両箱をたった83箱しか運び出せなかったとか、漬物石の代わりに千両箱10箱を載せて置いておいたら、出入りの者が1箱づつ持っていったとか、離れの普請が出来たというので、駕篭で見に行ったが、夕方までに着かず翌朝になったとか、敷地が広く山も二つほど越えるので、最近はふもとに山賊が出るという。なんて調子だ。

これを真に受けて聞いていた宿屋の亭主高津神社の富札を売っているが、一枚売れ残ったので買ってくれという。おっさんは大きなことを言った手前、仕方なく持っていた最後の一分銀で富札を買うはめになる。
子(ね)の1365番」だ。そして、「何が当たっても半分やろう」と言って、しこたま飲んで食って、宿賃は踏み倒して逃げ出してしまおうという魂胆、その晩は酒を飲みに料理食って寝てしまう。

翌朝、おっさんは大阪に大きな取引きに来たといった手前、朝早く宿を出て、当てもないのに町なかにぶらりぶらりと歩き出した。
今日は高津さんの富くじの日だ。境内は大勢で賑わっている。一人の男が二番札の五百両が自分に絶対に当たると息巻いている。
「辰の八五七番」これが二番札だという。昨夜、夢枕に神様が立って、「二番札が当たる」とお告げがあったという。
当たった金で新町のなじみの女を身請けして、毎日朝風呂へ行って、差向かいで一杯やって寝て、起きたら風呂へ行って、差向かいで一杯やって寝て、・・・・ずっとこれの繰り返しだ。もしはずれたらどうすると誰かが聞くと、「うどん食って寝る」そうだ。

いよいよ突き富の開始となる。札の入った箱の中に錐(きり)を打ち込み引上げると一枚の札が付いて上がってくる。それを世話方が読み上げる。「一番の、御富・・・・」 この声で今まで騒いでいた連中も水を打ったように静かになる。
「子の1365番」 すると、「ふぁわい、すれた、すれた」という声。「わずかなすれやったらいくらかもらえる、なんぼほどすれたのか」聞くと、たった「850番」なんてのがいる。「第二番の御富・・・・」この声でさっき二番富の五百両が絶対に当たると自信満々でしゃべっていた男が前へ出てくる。
男「辰やろ」 世話方「辰の・・・」 男「800か」 世話方「800・・・」 男「50やろ」 世話方「50・・・」 男「7番か」 世話方「1番・・・」 男はそこへへたばってしまった。

三番富も終わり当たり番号を貼り出し、見物人がぞろぞろ帰り始めたころ、空っけつのおっさんがやってきた。今日が富の当日だったのを思い出し、昨日宿屋の亭主から買わされた富札を取り出し、貼ってある番号と見比べる。
「一番が子の1365番か、二番が辰の851番、三番が寅の1040番、昨日買わされたのが子の1365番、当たらんもんやなあ、いよいよ一文無しの空っけつか。・・・一番が子の1365番・・・、ちょっとの違いや」なんて何度も見比べ、しまいには一字づつ声を出し比べているうちに、「当たった、当たった、当たった」と大騒ぎ。家に帰って待っていれば世話方が金を持ってきてくれるという。

腰が抜けそうでガタガタ震えながら宿屋に帰ると、宿屋の女房がおっさんの顔色が悪いのを心配する。おっさんは、今日はもう誰にも会わんと二階へ上がり、ふとんをかぶって寝てしまう。

宿屋の亭主も高津さんへ入れ違いでやってきて、昨日おっさんに売った富が千両に当たったことを知って、これも腰が抜けそうでガタガタ震えながら帰ってきた。何せ当たれば半分もらえる約束だ。それも一番札の千両だから五百両だ。
女房に祝い酒だ、風呂の湯を抜いて酒を張って酒風呂にして旦那さんに飛び込んで飲んでもらうんだなんて言い、二階に上がって行く。

宿屋の亭主が千両富が当たったというと、
おっさん 「当たったらそれでええやないかい、わずかな金がもらえるのがそんに嬉しいのんか。そやさかい貧乏人はいやじゃちゅうねん・・・ほんまに人が寝ているとこへバタバタ、バタバタ・・・・これ、なにをしてなはる、人の枕元へ下駄はいて上がって来るちゅうことがあるかい」

宿屋の亭主 「ああ・・・あまりの嬉しさに、下駄ぬぐのを忘れておりました。とにかく、寝ててもろてはどんならん。起きて、祝い酒を」

亭主がしゅーとふとんをめくると、おっさんも雪駄(せった)を履いて寝ておりました。

 収録:平成11年3月
TBSテレビ「落語特選」


    

      
 
★見聞録★
 二番富の五百両が当たると息巻く男が当たってからの使い道を想像してしゃべるくだりや、空っけつのおっさんが当り番号と自分の札を見比べ、当たっているはずがないと思いながらも、何回も見比べまだ信じられず、一字づつ見比べてやっと当たりを確信し、腰が抜けそうになる所などがおかしいです。

宿賃を踏み倒してトンズラしてしまおうとしていたおっさんはともかく、正直者でお人良しの宿屋の亭主が五百両をもらえるのは気分がいいですが、おっさんから言いくるめられて値切られてしまうのではと心配です。
当たれば半分やるなんて約束はしていないなんて開き直るほど、空っけつのおっさんは悪人でもなさそうですが、ほら吹きのおっさんの演じ方、描き方がむずかしいと桂米朝は言っています。
千両富が当たった後も宿屋の亭主にホラを吹き続けるところを見ると、このおっさんは一筋縄に行きそうにありません。

大川町から高津宮まではぶらぶら歩いても1時間半はかからない距離。宿を出て当てもなく歩いていた時と、富が当たって宿屋へ帰る時のおっさんの気分は天地の差だったでしょう。
そして、宿屋の亭主に、当たったら半分やるなんて約束をするんじゃなかったときっと後悔したことでしょう。おっさんでなくとも欲深い人間の性(さが)からしてこれも当然でしょうか。

この噺では、最初に一番富を突きますが、東京では「宿屋の富」で一番富は突き止めといって最後です。
米朝も実際に大阪ではどうだったかはっきりせず、演出の効果を狙ってこうしたのかも知れないと言っています。

富札の値段の一分は一両の1/4で、大雑把に3万〜3万5千円位か。

新町(大阪市西区1丁目)は、江戸の吉原、京の島原と並ぶ日本三大廓の一つだった。『新町遊郭の仕組み

雪駄(せった)は、「竹の皮の草履の裏に獣の皮をつけた履物。千利休が雪中で用いたのに始まるという。のちには皮の上に金物を打ちつけた」 


桂ざこばの『高津の富【YouTube】


   淀屋橋

土佐堀川と中之島の大阪市役所
   大川町(大阪市中央区の淀屋橋の南詰めあたり)

かつての宿屋街、ミナミは日本橋界隈、キタは大川町に宿屋が集まっていた。
   高津宮(中央区高津1丁目)

祭神は仁徳天皇ほか五神

   高津の富亭

高津宮境内・落語会を開催




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