「幸助餅」

 
あらすじ 長堀の餅米問屋の大黒屋の主人の幸助は大の相撲贔屓(びいき)。あまり入れ込み過ぎて店を潰してしまい、残ったのは借金だけ。

 妹の小梅新町の吉田屋に勤めるということで、女将から三十両の金を貸してもらう。女将は幸助に、少しづつでも返してくれれば小梅は店には出さないが、また相撲贔屓が始まって滞ったりしたら、心を鬼にして小梅を店に出すと釘をさす。

 幸助が新町を出ようとすると、贔屓にしている相撲取りの雷(いかづち)五郎吉に久し振りに会う。二年ほど江戸相撲で修行して大関になったという。幸助は大関になった祝儀にと三十両をやってしまう。

 幸助は帰る途中で心配して様子を見に来た叔父の安兵衛に会う。三十両を雷にあげてしまったと話すと、安兵衛は呆れて怒って、まだ新町にいる雷のところへ行って、三十両返してくれと掛け合うが、
雷 「・・・相撲取りは芸人と同じ、一度受け取った祝儀など返せますかいな。・・・これからは、道で会うてもこの雷の贔屓じゃなどと言わんといてもらいます。痩せても枯れても江戸の大関、この雷の名前に傷が付きますわい 」と、けんもほろろに追い返される。

 仕方なく吉田屋の女将からまた三十両貸してもらうことになる。幸助は相撲とは縁を切り、小さな餅屋を始める。これが繁盛して、三年ばかり経つともとの長堀に店を構えることが出来るようになった。

 新町の女将から借りた六十両もすっかり返し、小梅も店から請け出した。そんなある日、餅をくれと暖簾をくぐったのが雷だ。
幸助 「お前の顔など二度と見たくない。さっさと帰ってくれ」

雷 「今日は餅を買いに来た客だ」

幸助 「客なら仕方ない。いくつだ」、「一つくれ」で、払った金が三十両。

幸助 「おい、ふざけた真似するな。この餅一つに三十両、お前、俺を馬鹿にしてんのか」

雷 「旦那さん、ようご辛抱なさいましたなあ。これはあの折、新町で頂いた三十両。今、改めてお返しをいたします」

幸助 「何じゃい、ああ、そうか。お前あの時はわしが金がなくなって、こんなやつに贔屓でいられても何の得もないと縁を切りやがったな。こうしてまた商売が上手く行って金が出来ると、また贔屓にしてもらってたかろうと思って来やがったんやな」と、雷に手を上げそうになる。そこへ入って来たのが吉田屋の女将。

女将 「もし、幸助はん、あんたその手を下ろしたら、罰(バチ)が当たりまっせ。あの時、わてが貸した二度目の三十両、 誰が出したと思てなはんねや。雷はんはあの時、三十両返せばその金でまた贔屓の相撲にのめり込んでの元の木阿弥。相撲から縁を切ってもらうため涙をこらえてあんたに愛想尽かし、三十両はわてから貸してやってくれと言うて来ましたんや」

幸助 「へぇ~、ほんまでっか。そんなことわてちいとも知りまへんがな、・・・」

女将  「それだけやおまへん。このお店ができた時に、自分のご贔屓衆を一軒一 軒訪ねて回って今度、長堀に幸助餅という新しい餅屋ができました・・・・どうぞ皆様から注文していただきますようにと、頭を下げて回わんなはったんやがな」

幸助 「おい雷、お前そんなこと・・・ わしが悪かった、許してくれ」と、仲直りで目出度し目出度し。幸助は前より増して雷の贔屓になって、湯水のように金を使ってまた店を潰しちまった。



  








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