「狂歌家主」


 
あらすじ 「元旦や今年もあるぞ大晦日」で、もう大晦日の到来だが八さんの家では餅をつく金もなく、かみさん三切れだけ買ってきた。後は借金取りの撃退と、溜っている店賃の言い訳だ。去年は八さんが死んだことにして、あわや店賃は香典代りに棒引きとなる所で生き返って失敗したからその手は使えない。かみさんが借金取りの方を引き受けるから、お前さんは大家の所へ店賃の言い訳に行ってくれと言う。

 今年は大家が凝っている狂歌を餌に言い訳しようという算段だ。かみさんは、「私も狂歌に凝り、あちこち会へ顔を出しておりまして、ついついご無沙汰になりました。いずれ一夜明けまして、松でも取れたら目鼻のつくように致します」と、店賃の言い訳を教えるが、八さんは初めの狂歌すら出て来ない。かみさんから「狂歌を忘れたら、千住の先の草加か、金毘羅様の縁日の十日で思い出すんだよ」と、入れ智恵された八さんはいざ大家の所へ。「え−、大家さん・・・・・千住の先は?」、大家「竹ノ塚か西新井か」、「金毘羅さまは、いつでした?」、大家「十日だろう」、「そう、そのトウカに凝って、大家さんは世間で十日家主って・・・」、大家「馬鹿野郎、俺のは狂歌だ」でやっと狂歌にたどり着いた。

 大家は狂歌はたいそう役に立つものだと言う。この間も搗き米屋に玄米をつかせにやったがなかなかついて来ないので、「二斗三斗(二度三度) 四斗(人)をやるのになぜ来ぬか(小糠) 嘘をつき屋で腹を立ちうす(臼)」と言ってやったら、すぐについて持って来たと自慢げだ。それなら八さんも、この間、酒屋でつけで酒を買おうとしたら番頭が、「貸しますと返しませんに困ります 現金ならば安く売ります」と断ってきたから、「借りますともらったように思います現金ならばよそで買います」と、やり返したと合せる。大家もだんだん乗って来て、何かやってみろとせかす。
八さん「貧乏の棒もしだいに長くなり振り回されぬ年の暮れかな」に、大家は面白いなあと感心し、まだあるかと膝を乗り出す。
八さん「貧乏をすればくやしき裾綿の下から出ても人に踏まれる」は、「くやしき」だの「人に踏まれる」だのと風流の道に愚痴があってはいけないと不評だ。見本をしめそうと、
大家「貧乏をすれどこの家に風情あり質の流れに借金の山」
八さん「貧乏をしても下谷の長者町上野の鐘のうなるのを聞く」と、絶好調だ。

 大家は八さんの狂歌の腕前を認めたのか、上と下の付け合いをやろうと言う。
大家は大晦日に合わせて、「右の手に巻き納めたる古暦」と上を詠んだが、八さんが上手く下をつけることなどできるはずもない。
大家「時の関所の手形にぞせん」と代って下をつけたが、八さんには何のことやらだ。
大家がまた「初春や髪の飾りに袴着て」と上を詠んだ。

八さん 「の使いはかかあをやるなり」

大家 「それじゃあ上にも下にも付かねぇなあ」

八さん 「えぇ、つかないから三切れ買って来たんで」



 下谷の長者町は現在の上野三丁目のJRの高架線沿いの地。地名の由来は朝日長者という分限者が住んでいたことによるらしい。 《地図



三遊亭金馬の『狂歌家主【YouTube】






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