★あらすじ 京の伏見で江戸の三井家と大黒様を彫る約束をした左甚五郎は、ぶらりぶらりと東海道を江戸へ下る途中の三島宿で「竹の水仙」を彫り、やっと箱根を越え多摩川を渡り江戸に入った。
神田八丁堀の今川橋を渡った銀町の通りがかった普請場で大工の仕事ぶりを覗いて、そのぞんざいさ、へたさ加減にあきれて、「仕事は半人前、そのくせ飯は一人前」なんて言ったから、大工たちから袋叩きにされてしまう。
棟梁の政五郎が割って入り、泊る所も決まっていないと言う甚五郎を橘町の自分の家に連れて帰る。政五郎が生国と名前を聞くと、生国は飛騨の高山という。政五郎が日本一の名人の甚五郎と同郷だが知っているかと聞くと、それは私だとも言えず、名前は箱根山を越えた時に忘れたと逃げた。名無しでは困ると、若い連中に自分の名前を忘れるほど、ポォ〜としているので、”ぽんしゅう”と名前をつけられてしまった。
翌朝から政五郎は、ぽんしゅう(甚五郎)を仕事に出す。馬鹿にした若い連中は甚五郎に下見板を削らせる。午後までかかった仕事で出来たのがたったの二枚きり。甚五郎は板を水に浸してぴったりと合せ、剥がせるものなら剥がしてご覧と言って帰ってしまった。大工連中は板を剥そうとしたが、一枚の板になったみたいで全然動かず剥がれないのでびっくりだ。
政五郎は小僧っ子の仕事の下見板削りをやらせた連中を叱り、ぽんしゅうに謝り、当分の間二階でゴロゴロしていてくれと頼む。そのうちにおかみさんから苦情が出る。
政五郎はポンシュウの仕事は江戸向きではないから上方へ帰った方がいいと勧め、その小遣い稼ぎに恵比寿大黒でも彫って小遣い稼ぎをしていかないかと持ちかける。甚五郎は大黒と聞いて、三井家との約束を思い出して部屋に閉じこもって仕事の取りかかった。
数日後、政五郎はあの熱心な仕事ぶりでは何十組もの大黒が彫れたと思って仕事場を覗くと、たった三寸ほどの大黒さまが一体だけ。それが政五郎を見て目を開けてニヤニヤと笑ったように見えた。
ちょうどその時、甚五郎から手紙で大黒ができたと知らせを受けた駿河町の三井家の使いの忠兵衛がやって来た。政五郎もやっと”ぽんしゅう”が甚五郎だったと悟る。甚五郎は代金の百両からお礼にと政五郎にぽんと気前よく五十両渡した。
三井家で大黒と対になる恵比寿には「商いは濡れ手で粟のひとつかみ(神)」と書いてあると言うので、甚五郎は「守らせたまえ二つ神たち」と書き添えた。三井に残る甚五郎の大黒でございます。
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