「深山隠れ」

 
あらすじ 肥後天草の噺家山御霊ヶ嶽の深山に隠れ住む、女首領が率いる山賊団が、近隣の村や旅人を襲って苦しめている。麓の村から百姓や漁師らが五十人ばかりで賊退治に行ったが、誰一人として帰って来るものはなく、なんの音沙汰もない。

 庄屋の長男の梶田新吾が村人の敵討ちに向かったが、これも帰って来ない。そこで武芸のたしなみのある弟の源吾が、村人と兄の敵討ちに出掛けた。険しい山道を上って行くと、荒れたお堂の前で若い女が苦しんでいる。

源吾 「そなたは何者じゃ。なんで苦しんでおる」

娘 「はい、近くの木こりの娘ですが、家へ帰る途中で持病の癪(しゃく)が出まして難渋しております」、源吾は持っている薬を与えて娘を介抱する。

娘 「ありがとうございます。もう、日も暮れてまいりました。どうか私どもの家にお泊りください」、源吾はかたじけないと娘の後をついて行く。

 娘は険しい山道を色鮮やかな塗下駄で軽やかに、すいすいと歩いて行く。深い谷に架かる丸木の一本橋も、鼻歌を歌いながらカランコロン、カランコロンと造作なく渡ってしまった。

 源吾はそれを見て、この娘はただ者ではない、狐狸妖怪の類か山賊の一味と見破った。源吾は弾みをつけて飛び上がり、一気に橋を飛び越えて娘を一刀両断に斬り捨てた。娘の履いていた下駄を持って、少し行くと大きな鉄の門の岩窟がある。門の隙間から覗いて見ると、ごつい面相の荒くれ男たちがたむろしている。

山賊 「カモを探しに行った妹御前(いもうとごぜ)はまだ帰らんか。千人の生き血を取って、神様に差し上げたら、 お頭の願いが叶うそな。あと一人のカモで千人になるのやがな」、山賊どもは前祝いと酒を酌み交わしてがやがやと騒いでいる。

 やっぱり、さっきの娘が妹御前だったのだ。源吾は娘の履いていた下駄を大きくカランコロンと響かせる。すると妹御前の帰りを待ちわびていた山賊、「妹御前のお帰りじゃ。みんなでお出迎いじゃ」と、門を開けて二列に並んで頭を下げた。

 源吾は門を入るや、好都合にも雁首が揃っている山賊どもの首を、一気に斬り落としてしまった。源吾は転がっている首を蹴散らしてさらに奥へ進むと立派な扉が待ち構えている。

源吾 「頼もう~、頼もう~」、出て来たのが見目麗しいが、目つきの鋭い若い女。源吾はこれが姉御前とすぐに察知。一夜の宿を乞うと、

姉御前 「ここへ来る道の途中で、十六、七の娘に会いはいたしませなんだか?」

源吾 「狐狸妖怪の類と思い斬り捨ててござる」

姉御前 「この前の岩窟には男どもがいませんでしたか?」

源吾 「二十人ばかりのゴロツキのような男どもがいたが、胴体と首を別々にいたした」、これを聞くや否や女は、きりっと目尻をつり上げ身をひるがえして奥の部屋に入り、白装束にたすき十字にあやなし大薙刀の姿で現れた。

姉御前 「おのれ、妹、手下の仇、覚悟!」と、大薙刀を振り下ろしてきた。源吾、なんなく身をかわしての立ち回り、源吾の鋭い刃先をかわして女は石灯籠の上にひらりと飛び乗った。見事、天晴だが着物の裾が乱れて、下の源吾から覗かれる格好となった。「見える、見えるぞ」、

 そこは山賊の姉御と言えども女、恥じらいが出て裾を気にして油断が出来た。そこを源吾は見逃さずに飛び上がって太刀を横に払ってスパッと女の胴を斬ってしまった。源吾がなおも奥へと進もうとすると、白髪の老婆が白鬼のような形相で現れて、

老婆 「わらわこそは、先年天草にて亡び失せたる森宗意軒が妻、仔細あってこの深山に隠れ住み、千人の命を取り、大日如来に捧げんとこれまで企みしこと、汝らごときヒョロヒョロ侍に邪魔されようか。おのれ娘の仇!」と、大音声と呼ばわりとは行かず、ヒョロヒョロなのは婆さんの方だ。

 敵わないとみた婆さんは外へヒョコヒョコと逃げ出した。川岸まで追い詰めた源吾は婆さんを抱えて、川の中へジャブジャブジャブ。

婆さん 「これ!殺すものならひと思いに殺せ!」

源吾 「婆は川で洗濯じゃわい」



  



601(2017・12)




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