★あらすじ 東海道の神奈川宿に茗荷屋という代々繁盛した料理屋があった。当代の亭主は道楽者で、身上(しんしょう)を潰してしまい仕方なく宿場のはずれに小さな宿屋を出したが、客あしらいも悪く、家も汚くなり泊まる者もいなくなる有様だ。亭主夫婦は宿をたたんで、江戸に出て一から出直そうと決めたある夜更けに、年配の商人風の旅の男が一晩泊めてくれと入って来る。
男は商用の百両が入っているという荷物を預け、すぐにぐっすりと寝入ってしまう。百両に目がくらんだ亭主は台所から出刃包丁を取り出し客間に向かうが、女房に気づかれ浅はかなことと思いとどまる。
だが女房も喉から手が出るほど百両が欲しい。そこで妙案が思い浮かんだ。宿の裏にごっそり生えている茗荷(みょうが)を刈って客の男に食べさせるのだ。茗荷は物忘れをさせるという。客に茗荷ばかり食べさせ預けた荷物のことなど忘れさせてしまおうという算段だ。
翌朝、ぐっすり寝て気分よく起きてきた男に、宿の女房は「今日は先祖の命日で、茗荷を食べる慣わしになっています」と、茗荷茶、茗荷の炊き込みご飯、茗荷の味噌汁、茗荷の酢の物など茗荷づくしを膳に並べる。男は「美味い、美味い」と茗荷をたらふく、満腹、満足して預けた荷物も忘れて宿を立って行った。
宿屋夫婦はまんまと計略が成功し、百両が手に入ったと大喜びも束の間、男はすぐに戻って来て預けた荷物を持って行ってしまった。糠喜びでがっかりした夫婦、
亭主 「何か忘れていった物はないか」、しばらくして女房が気づく。
女房 「あ、あるある」
亭主 「何を」
女房 「宿賃の払いを忘れていった」
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