★あらすじ 江戸の名物は「武士鰹大名小路広小路茶店紫火消錦絵、火事に喧嘩に中腹(ちゅうっぱら)伊勢屋、稲荷に犬の糞」なんて言います。
昔は町内に番小屋があり、番太郎がいて夜回りをしていたが、酔っ払って寝てしまったり寒いので夜回りをさぼったりすることが多かった。そこで町内の旦那連中が集まり夜回りをすることがあった。またそれを見回る町役人もいた。
今夜も町内大勢の旦那方が番屋に集まる。寒く風の強い夜で、月番が宗助さんにすきま風が入らないようにゴザを立てかけるように言いつけ、こんなに大勢でなく二手に分かれて夜回りをしようと持ちかける。そうすれば一方が回っている間は、片方は暖かい番屋の中で休めるので皆、大賛成だ。
月番が宗助さんに提灯を持たせ、第一陣の夜回りが出発する。あまり寒いのでふところに入れているため拍子木が鳴らず、金棒もふところ手をして突かないで引きずっているから音も出ない。
月番が「火の用心」の掛け声を出すように言うと、謡の口調や浪曲調の「火の用心」が飛び出す。
吉原で夜回りをしたことがある旦那はさすが経験者で「火の用心 さっしゃりやしょう」といい調子だ。最後の方が少し揺れて途切れ途切れになる感じだ。北風に向って掛け声が震えているのだという。
そんなこんなで寒風の吹きっさらしの中、すっかり冷え切って一回りを終え番屋へ戻ると、二組目が出発する。月番は宗助さんに火鉢にもっと炭を入れろと催促する。誰かが月番にふくべに入れてきた酒を差し出す。娘が体が暖まるものをと持たせてくれたのだという。
月番は番小屋に酒なんか持込んで心得違いもはなはだしいなんて言いながら、宗助さんに土びんのお茶を開けさせその中に酒を入れさせる。番小屋にふくべの酒はまずいが、土びんに入った風邪の煎じ薬ならさしつかえないということだ。
するとあちこちから自分も酒を持ってきたと差し出す。皆、考えることは同じ、月番までもが酒を持ってきたと白状する始末。
今度は酒の肴にと猪の肉、ねぎ、味噌が出てきた。鍋は背中に背負っている。早速酒盛りが始まる。皆寒いところから帰ってきたのですぐ酔いが回っていい気分になる。都々逸の回しっこをやろうなんていう旦那も現れてくる。
そこへ「ばん、ばん」という声。月番は横丁のかまぼこ屋の赤犬が猪の肉の匂いを嗅ぎつけやって来たと思い、「しっしっ」と追い返そうとする。
「番、番、番の者はおるか」 さあ大変だ見回りの役人がやって来た。あわてて猪の鍋を股の下に隠したりしている。月番はなんでも宗助さんのせいにしようとする。役人は「今、しっしっ」と言っていたのは何かと聞く。
月番 「あれはこの宗助さんが・・・・・寒いので火、火と申しました」
町役人は土びんのような物をかたずけたようだがあれはなんだと更に追い討ちをかける。
月番 「あれはこの宗助さんが・・・・・風邪の煎じ薬です」、役人は自分も風邪を引き込んで困っているので飲ませろという。仕方なく土びんの酒を飲ませると、寒い時にはもってこいの煎じ薬だなんて言い、さらに鍋のような物を隠したようだがとしつこい。
月番はまたもや「あれはこの宗助さんが・・・・煎じ薬の口直しです」、なんて言い訳をするが股下に隠してあった猪の鍋まで食べられてしまう。すっかり調子に乗った見回りの役人はもう一杯と酒をせがむ。
旦那連中からこれ以上飲まれたら自分達の分が無くなってしまうからもう断ってしまえと言われて、
月番 「もう一滴もございません」
町役人 「無い、無いとあらばいたし方ない。拙者もう一回り回ってくる来る間に二番を煎じておけ」
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