「睨み返し」


あらすじ 「江戸っ子は宵越しの銭は持たない」と威勢はいいが、「元日や今年もあるぞ大晦日」で、もう大晦日が来てしまった。「大晦日、箱提灯は恐くない」で、この日だけは侍よりも、弓張り提灯を持った掛取りの方が怖かった。

 長屋の熊五郎は、あちこちに貯まった借金の金策もできずに、かみさんから責め立てられている。そこへ薪屋が本日三度目の御入来だ。勘定を払ってもらうまでは一歩も引かないと、ずかずかと上がり込んで来る。熊さんは負けずに薪ざっぽうを取り上げ、心張棒をかって払うまでは帰えせねぇと凄んだ。払うまでは半年、一年かかる。その間飯は食わせないから死んだら葬式ぐらいは出してやると脅すと薪屋はギブアップだ。調子に乗った熊さんは受け取りを書け、十円札で払ったからつりをよこせと言いたい放題。薪屋は泣く泣く帰って行った。やっと一人追っ払ったが、まだまだ借金取りは続く。

 すると表で、「ええ、借金の言い訳しましょう」と言う声がする。言い訳して断ったくれればありがたいと、呼び寄せる。言い訳屋は、どんなに手強く、しぶとい借金取りでも追い返すと自信満々だ。一時間二円で先払いだという。熊さんはなけ無しの銭をかき集めて、言い訳屋を雇った。かみさんと押し入れに入り、どんな言い訳で借金取りを撃退するのか見物だ。

 まずは米屋が入って来た。見知らぬ変な男が煙管をくわえて睨(にら)んでいる。何を言っても無言で睨み返されて気味が悪くなった米屋は、「また参ります」とすごすごと退散した。

 次ぎの魚屋は戸を開けて言い訳屋の怖い顔に睨み返されただけで、「さいなら」と帰って行ってしまった。今度のは強面(こわもて)の那須正勝という高利貸しの代理人で手強さそうだ。でも言い訳屋は相変わらず無言で何を言われても黙って睨み返すばかり。さすがの那須氏も、「いずれまた、失敬」と引き返して行った。

 言い訳屋が時計を見るとすでに十分のタイムオーバーだ。「これでおいとまさせてもらいます」と帰りかけるのを引き止め、

熊さん 「まだまだ来るから、三十分ばかり座っていてくれ、金は何とかするから」

言い訳屋 「いや、そうしちゃいられません。家へ帰って自分のやつを睨みます」


  


柳家小さんの『睨み返し【YouTube】


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