「二丁ろうそく」


 
あらすじ しわい屋吝(けち)右衛門は、四十を過ぎても不経済だと女房を持たなかったが、親類や回りの者たちからやいのやいのと言われて、仕方なく災難とあきらめてやっと嫁を取った。

 吝右衛門は嫁さんになるべく近づかないでいたが、冬になって煎餅布団で寝ているのが寒くなって、女房の布団に入って寝るようになったら子どもができてしまった。こりゃあ当然の成り行きだが。さあ大変、金がかかることになったと、

吝右衛門 「子どもはできないつもりでもらったのに、できちまったから実家(さと)へ帰そうか」

番頭 「そんなことはできません。奥様はご実家の方が安心してお産ができるでしょう。せめて身二つになるまでご実家にお預けになったらいかがでしょう」、なるほどその方が金もかからないしと吝右衛門も納得し、おかみさんは実家で出産まで預かってもらう。

 十月(とつき)経って、
番頭 「奥様のご実家から赤ん坊が生まれたからおいでを願いたいと、お迎いが参りました」、もう少し日延べはできないかなんて渋っている吝右衛門に、

番頭 「・・・ご実家ではたいそうなお祝いの席をもうけて、ご馳走などもずいぶんとございましょう」

吝右衛門 「へえ、そうかい、行こう行こう。ご馳走が出るんなら一人で行っちゃつまらない。小僧の長松を連れて行こう」、長松を呼んで、

吝右衛門 「これからおかみさんの実家に行くから一緒に行きな。あっちでご馳走が出るから、明日の朝の分まで食べてきなさい。それから切溜を持って行くように。ご馳走を切溜に詰め込んで持って帰ってうちの者に食べさせるんだ」、「へい、かしこまりました」

吝右衛門 「それから提灯も持って行きな。蝋燭(ろうそく)はいらないから」

長松 「ろうそくがなければ灯りがつきやしません」

吝右衛門 「帰る時になったら、長松、提灯つけとくれというから、その時にお前が、ろうそく持って来るのを忘れましたと大声で言って、わぁ~と泣き出すんだ。そうすると実家の方でそんなことで泣くには及ばないと、ちゃんとろうそくをくれる。用心のために一本余計に二本くれるから心配するな。半丁ばかり灯して歩いて、火を消せばろうそくが二本もうかるというもんだ」

 やはり金を貯める人は違う、偉い、いやせこい。さて、出かけようとすると長松は汚いすり減った下駄を履いている。

吝右衛門 「なんだその下駄はみっともない。・・・向こうにいいのがあったら間違えたふりして履いて来い」、まるで下駄泥棒に行くようだ。

 さて、実家に着いて赤ん坊を見て、さすがの吝右衛門も金勘定を忘れてしばし大喜びだが、赤ん坊が大きなあくびをすると、
吝右衛門 「生まれたばかりでこんな大きな口を開けるようでは、いまにどんなにお飯(まんま)を食べることやら・・・」、実家の人たちは面白い冗談を言うお方だと笑っているが、吝右衛門は真剣そのもの、また一つ心配事が増えたのだ。

 美味い料理もたらふく食べて大満足で、泊まってくださいと引き止めるのを、吝右衛門は店のことがあるからと、帰り支度を始める。

吝右衛門 「これ、長松、提灯をつけなさい」、長松が打ち合わせどおりに、「わぁ~」と泣くと、

吝右衛門 「これ、お目出度いところへ来て泣くやつがあるか、どうしたんだ」

長松 「忘れてろうそく二丁持って来てしまいました」
 


  


        

657(2018・2)




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