「能祇法師」


 
あらすじ 宗祇に心酔し、あとを慕って俳諧の道に入った元は武士の能祇という坊さん。全国津々浦々を漂泊の末、東海道の大磯の西の庵室にのんびりと住み着いて、日々俳諧の道を極め、古典などを紐解いている。

 ある冬の夜寒に泥棒が入った。「金を出せ」、「金なぞはない」、落ち着いて取り合おうともしない能祇に泥棒は刀を突きつける。

能祇 「ほお、二尺八寸か。世間の欲を去っている身、ご覧の通り何一つとして蓄えている物は無い。折角お前も商売で来たんだろうから何かやりたいのは山々だが、何にもないのだから致し方ない」、なるほど能祇の回りには紙屑が散らばっているだけだ。

泥棒 「そこに汚え本があるじゃねえか。それだって屑屋にでも叩き売りゃ幾らかにはなるってもんだ」

能祇 「是はいかん。これは伊勢物語といって大磯のある町家から借りてきて、ようやく半分まで書き写したものだからこれだけは勘弁してくれ」

泥棒 「これだけは勘弁たって、これしか無えじゃねえか」と、無理やり本をひったくって表へ飛び出して、元のとおりにをパタリと閉めて行こうとするから、

能祇 「これ、ちょっと待て、そんな本より金になる物をやるから、それは置いて行け」、泥棒は金になると聞いて戻って来た。能祇は短冊に何かさらさらと書いて、

能祇 「これをお前が知っている風流が分る人のところへ行って見せなさい。そうすれば幾らかで買ってくれるだろう」、人がいいのか間抜けなのか泥棒は伊勢物語は返して、短冊を持って出て行ってしまった。

 翌朝、泥棒は町内の物知り顔の風流人気取りの家主のところへこの短冊を売り込みに行く。

家主 「どうせお前の持って来る物じゃ、ろくな物ではなかろうが、まあいい見せてみな」、短冊を受け取った家主、しばらくして、「十両で買ってやる」、「へぇ~、これが十両とは驚いた」

家主 「買ってやるが改心しろよ。お前、泥棒に入ったろう」で、泥棒は二度びっくり。

家主 「近郷近在まで鳴り響いている能祇法師のところへ盗みに入るとは情けないやつだ」

泥棒 「あっしが泥棒に入ったことがそこに書いてあるんで?」

家主 「盗人の門(かど)閉(た)てて行く夜寒かな”と書いてある。分かったか」

泥棒 「門は叩(たた)いてやしません、閉めて帰(けえ)りやしたが・・・」

家主 「まあ、高い物だが十両で買ってやる。その代わりにそれを元手にして何か商売をしろ。そして小金を貯めて少しは親に孝行を尽くせ。いいか分かったか」、「はい、分かりました」と素直で落語の泥棒らしからぬ展開だ。すぐに十両で商売を始めこつこつと行商で売り歩いて両親も大喜び。

 ある日、行商の途中で能祇に礼を言おうと庵室に立ち寄る。泥棒の変身、変心ぶりに驚いて喜んで、

能祇 「さて、伊勢物語の本を持って出ようとした時に、なぜ門を閉めて行ったのだ」

元泥棒 「へへへぇ、開けっ放しは物騒でございますから」


  



宗祇戻しの碑(左)・芭蕉句碑(右) 「説明板
白河市の坂



鴫立庵(しぎたつあん) 《地図
西行」の「こころなき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ」にちなむ草庵。

東海道の大磯宿の西で、能祇法師の庵室もこのあたりにあったか。
こんなに立派ではなかろうが。



        

690(2018・3)




表紙へ 演目表へ 次頁へ