「能狂言」

 
★あらすじ
 ある小国の大名が国許に帰国し、家来の者一同は大広間で挨拶をする。殿様は江戸表で見た能狂言が面白かったので、もう一度見たいという。家老は「委細承知つかまつりました」と答えるしかない。

 あとで家来衆が家老に能狂言とは何かと聞くが、家老は知らず家中に知っている者はいない。そこで市中に高札を立て貼り紙をし、能狂言を知っている者を探しだすことになった。なにせ辺鄙な田舎のことで、知っている者は現れない。

 そこへ登場するのが旅興行が解散し方角がいいからと、物見遊山でこの国へ流れてきた噺家二人。腹が減って一膳飯屋に入る。「じきさめ」、「庭さめ」、「村さめ」の酒の中で、一番遅くまで、村を出るまで酔いが残っていそうな「村さめ」を飲むがこれも酒っぽい水だ。

 すると一人が能狂言の貼り紙を見つける。二人が能狂言を知っていると聞いた茶店の婆さん。てっきり高札のお尋ね者と思い、何かうまいものを作ってやるから待っていろと言って、店を抜け出し役人の所へ行き、店に能狂言を知っている二人づれが酒を飲んでいるから召し捕ってくれと訴える。

 早速、捕り物姿の役人が五、六人で店へ行き、二人を捕らえてふん縛って城中へ引き出す。驚いた家老、役人を叱りつけ無礼をわび上座に座らせ、二人に能狂言をやってくれと頼む。

 噺家二人は能狂言をやれば、お礼をくれると言うので、いい加減にやってお礼にありつこうと引き受ける。衣装をいいつけ、舞台が出来るまで、二人は朝から食って飲んで寝ているばかり。

 いよいよ舞台もできあがり、明日は能狂言の日だ。二人は忠臣蔵五段目の茶番をやってごまかすことにする。「忠五双玉」という狂言名にする。太鼓、笛はないので、若侍の口で演じることにする。掛け声、笛、太鼓の稽古をやり準備万端。

 いざ当日。鳴物連中の掛け声、口笛、口太鼓の中を、五段目のセリフを謡のように節をつけ、噺家の与市兵衛が登場する。そこへ定九郎役の噺家が現れ、金を渡せと迫る。

 このあたりから酒を飲んで舞台へ上がった与市兵衛が酔ってきてセリフがおかしくなる。こりゃいけないと思い、定九郎は刀を抜いて切るつける。与市兵衛は舞台に倒れる。

定九郎 「久しぶりなる五十両、これより島原へ女郎買いにまいろう・・・」と、舞台から引き下がる。ここで芝居なら幕が下りるはずだが、能舞台だから幕も緞帳もない。

 お囃子連中は声を出しっぱなしで疲労困憊。舞台に倒れたままの死んだ与市兵衛も困った。すると、与市兵衛がむくむくと起き上がり、

与市兵衛 「わしを殺して金を取り、女郎買いとは、太てえ野郎。島原へはやるまいぞ。女郎買いには、やるまいぞ、やるまいぞ、やるまいぞ〜」、(こう言いながら舞台から無事退場した)


   



「忠臣蔵五段目」 与市兵衛から金を奪おうとする定九郎。(広重画)



与市兵衛の墓 「説明板」 《地図
このあたりは「横山峠」と呼ばれていたそうだ。
それほどの高さもなく、今は明るい賊など出そうもない住宅街だが。

西国街道@


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