★あらすじ 船場の出入りの商家にやって来た喜六が、一度島原へ行って遊んでみたいと言うと、
旦那 「そうか、一ぺんわしが案内したげよ。けどお供ではつまらんさかい、お前を旦那に仕立てて、わしがお供という趣向で行こう。そやなおまはんを彦だん、ということにしよう」
喜六 「ひょこたんでっか?」
旦那 「彦兵衛旦那や、わしが彦だんと呼んだら”ああ、ああ”と返事せえ。ちょっと彦だん」
喜六 「へえ、へえ」
旦那 「へえへえ、ちゅうたらあかんがな、鷹揚に自分の方がえらいんや、ちゅう顔してんとあかんで」
喜六 「わし、そんな窮屈なん、かなわんがな」
旦那 「その方が面白いのやさかい、上手くやってや」、旦那から上等の着物一式を借りて、旦那をお供にして喜六は島原の大門へとやって来た。
旦那 「さあ、ここが大門や。これが”出口の柳”と、唄にもなってる名代の柳や。島原には七不思議がある。入口を出口と言い、どう(堂)もないのに道筋(どうすじ)、下へ行くのを上之町、上へ行くのを下之町、橋もないのに端女郎、社もないのに天神さま、語りもせんのに太夫さん・・・太夫、天神、端女郎はみな遊女の格や」
角屋に上がると、「扇の間へ、ごあな~い(案内)」
旦那 「さ、これから”かしの式”やで」
喜六 「何を貸してくれまんねん?」
旦那 「そやない。太夫さんがここへ出て来てあいさつするのや」、太夫が煙管で吸いつけて渡すと、旦那が煙草を一服してフゥーと吹いた。すると吸い殻が太夫のしかけ(打掛)にコロッと落ちてしまった。
喜六 「あぁ、えらいこっちゃ、金襴の縫い取りがしてあるのに・・・」とあわてているが、あわてず、騒がず、
太夫 「大事ござりません。ほっといてくださりませ」、禿(かむろ)を呼んで煙草盆を持ってこさせて、打掛をポンとはたくと、吸い殻はコロコロコロと煙草盆にジュッと落ちた。
喜六は太夫さんともなれば大したもんや、わしもやってやろと、腰の煙草入れを取り出した。これが羅宇仕替えてから八年、紙巻いて三年という代物で、吸うたびにジュジュウ音がする煙管だ。大旦那も着物から履物までは気を使ったが煙管まではうっかりしていた。
喜六は煙草を詰めてフッと吹いたが、煙管の掃除がしてないので吸い殻がすんありとは出て来ない。今度は力一杯吹いたもんだから吸い殻が飛び上がって喜六の頭のてっぺんに乗ってしまった。髪の毛がジリジリと焦げ出してきて、「お客さん、彦だんはん、えらいこっとす」、半泣きになりながらも、
喜六「大事おへん、ほっといてくださりませ」
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