「野ざらし」

 
あらすじ ある夜、長屋に住む八五郎の隣り部屋から若い女の声が聞こえてくる。隣りに住むのは、堅物で通っている尾形清十郎という年寄りの浪人者だ。

 怪しんだ八五郎は、翌朝、隣を訪れ昨夜の女は誰かと聞く。見られたとあっては致し方なしと、清十郎は顛末を語り出す。

 昨日、向島に行ったが摩日なのか雑魚一匹かからず帰ろうとすると、葦の間から烏が一羽飛び立った。その後を見ると、野ざらしの髑髏(どくろ)があった。ふくべの酒をかけ、「月浮かぶ水も手向けの隅田川」と手向けの句を詠んで回向して帰った。その晩、戸を叩く者がある。狐狸妖怪の類と思いきや開けて見ると若い女が立っていた。話を聞くと、向島に屍(かばね)をさらして浮かばれずにいたがおかげで成仏できたお礼に来たという。昨夜は一睡もせずその女と語り明かしたという。

 いい女なら骨でもなんでもいい八五郎は、清十郎の釣竿を無理やり借りて向島へ。釣り人の間に入って八五郎は女が訪ねて来るのを想像して一人芝居、一人相撲が始まった。

 餌もつけない釣竿で釣り場をかき回したり、釣竿を振り回したりして大声で騒いだりで、釣り客は迷惑千万、釣りどころではない。面白がって見ているとついに八五郎は水溜まりに座り込み、振り回した竿で自分の鼻を釣ってしまって、「痛てぇ、痛てぇ」の大騒ぎ。やっと鼻から釣り針をはずした八五郎は、こんな物は邪魔と釣り針を川の中へぽぃと投げ捨ててしまった。

 釣に来たわけではなく、骨があればいいと、葦の間を探し始めた八五郎は運よく手頃な骨を見つけ、ふくべの酒を全部かけて回向し、自分の家を教え、今晩待っているからきっと来てくれと骨に念押しして長屋へ帰った。

 これを屋根船で聞いていたのが新朝というたちの悪い幇間。女と会う約束と思い、祝儀をせしめようと八五郎の長屋にやって来る。待ちかねたと八五郎が戸を開けると、妙な男がべらべらと喋り出した。

八五郎 「お前は何者だ」

幇間 「へㇸ~、新朝という幇間(たいこ)でげす」

八五郎 「何、太鼓、しまった昼間のは馬の骨だったか」

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サゲの馬の骨は、太鼓には馬の皮を張ったから。後半は上方落語の『骨つり』の方が愉快だ。


柳家小三治の『野ざらし【YouTube】



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