「臆病源兵衛」
★あらすじ たいそうな怖がり屋の源兵衛さん。日が暮れてからは一歩も外へは出ず、夜は一人で便所にも行けない臆病者で、ついた仇名が臆病源兵衛。
横丁の意地悪隠居と八五郎が源兵衛を脅かして、震え上がってうろたえる様子を楽しもうと相談する。女好きだがちっとももてない助兵衛な源兵衛を、ちょっといい年増が待っていると誘う。
源兵衛は夜は怖くて外へは絶対に出られないのだが、色気には逆らえず待ち合わせの隠居の家に恐々(こわごわ)だが、期待に胸をときめかしてやって来た。むろん、年増女なんぞは待っていやしない。
源兵衛 「ご隠居、ほんとにこんな暗い中を一人で来るんですかい。夜叉か幽霊みたいな女ですねえ」
もう帰るという源兵衛を隠居は何やかやと言って引き止める。隠居は源兵衛に、女が来たら茶を入れるから鉄瓶に水を入れてきてくれと頼む。
恐る恐る、震えて小便をちびりながらながら暗い台所へ行った源兵衛の顔を、隠れて待ち構えていた八五郎が箒(ほうき)で顔をなでた。源兵衛は「キャァ~」と叫んで、八五郎の睾丸を思い切り握ったので、八五郎は目を回してしまう。
状況を察知した隠居はさらに悪だくみを追加する。
隠居 「お前は八五郎を握り殺してしまった。バレれば市中引き廻しのうえ、獄門、さらし首、間違いなしだぞ。気づかれないうちに、葛籠(つづら)に入れて高輪の寺の墓地に捨てて来い」と脅す。
源兵衛は夜中に一人で高輪の寺までなんて怖くてしょうがないのだが、隠居に獄門、さらし首と何度も脅されて、葛籠を担いで必死に高輪へ向かった。やっとの思いで寺に着いた源兵衛はとても墓地の中までは入れずに、門前に葛籠を放り出して一目散に逃げ帰ってしまった。
しばらくして品川からの遊び帰りの酔った三人組が通り掛かる。葛籠を見て泥棒が置いて逃げたものと思って、中に手を突っ込んでまさぐり始めた。あちこちをさわられて、くすぐったくて八五郎はくしゃみをして息を吹き返した。
びっくりして三人組は逃げてしまった。葛籠から出た八五郎、ふらふらと寺に入って綺麗な庭と月明かりに照らされた蓮(ハス)の池を見ているうちに、
八五郎 「ありがてえや、ここは極楽だよ」、と勘違いして、ぐるぐると歩いているうちに寺男に見つかって追いかけられるハメに。
八五郎 「なんでぇ、鬼が追いかけて来やがら。やっぱりここは地獄の血の池だったか」、寺から出て、ちょっとうらぶれた路地のようなところへさ迷い出た。ちょうど家の前にいたちょっといい女に、
八五郎 「姐さん、ここは地獄ですかい?」
女 「冗談じゃありませんよ。表向きは銘酒屋ですよ」
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*サゲの銘酒屋とは、申しわけ程度に酒の瓶を置いて、女は酌婦だが実際は最下級の売春宿で、「あいまいや」・「青線」・「地獄宿」、女を「ジゴク」とも呼んでいた。 |
血の池(瑠璃宝の池) 「説明板」
『四国遍路道(香川県④)』
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