★あらすじ 大工の安兵衛の死んだ先妻の子の清吉は、生さぬ仲の継母のおまさにつらく当たっている。今日も芝居を見て寿司を食うから三十文くれとせがむ、
おまさ 「お父っつぁんの休みの日に連れて行ってもらいなはれ。わたしが頼んで連れてもろたげよ。お腹空いたら、家(うち)でご飯食べなはれ」と、やさしく言ってお膳を出したが、清吉はお膳を庭に蹴飛ばしてふてくされて出て行ってしまった。清吉は長屋の路地で仕事から帰って来る安兵衛を待ち伏せて、
清吉 「遊びから戻って来てお母はんに飯食わして言うたら”子どもは日に一ぺん食たらえぇのや”言うねん。あんまりお腹が減ったさかい、勝手にお膳出して食べよ思たら”親の言うこと聞かん子や”言うて、表へ引きずり出されて水溜まり突き転ばされたんや・・・こない着物が汚れて・・・」と、嘘っぱちを並べる。
酔っ払っている安兵衛は清吉の言うことを疑わず、家に帰っておまさを叱り飛ばし夫婦喧嘩が始まった。毎度のことで長屋の連中は止めようともしない。
そこへ通り掛かった家主が割って入り、二人をなだめて酔った安兵衛を家主の家に連れて行く。安兵衛の酔いが醒めて来た頃、
家主 「お前、おまささんみたいなええ嫁さん粗末にしたら罰が当たるぜ。それに引きかえお前とこの清吉、うちの店に並べたる品物を持って帰ったり、 銭箱から金を掴んでポイッと出て行きよったり、こないだも信楽餅屋の屋台から売上から砂糖から信楽餅まで、すっくりと盗みよった」
びっくりしして何も知らなかったことを恥じ、おのれにも腹が立った安兵衛は長屋に帰って、今までのことをおまさに謝り、出刃包丁で不肖の息子、清吉を刺そうとする。必死に止めたおまさと二人、その夜は泣きながら夜を明かした。
翌朝、安兵衛は家主に相談して清吉を遠方に奉公に出すことになった。それからというものは安兵衛は仕事に精を出し酒も控えるようになって、おまさと仲良く暮らして行くようになった。
早や十年が経った蒸し暑い梅雨の頃、音信も途絶えていた清吉がひょっこりと家主のところへ立派になった姿を見せた。清吉は手土産を置いて安兵衛夫婦の家に行く。
清吉 「御免ください、お父っつぁんでございますか、ご機嫌よろしゅ~ございます」、安兵衛は立派な身なりの若者にお父っつぁんと呼ばれる筋合いもなく、家を間違ったのかときょとんとしておまさを呼ぶ。
おまさ 「お越しやす・・・?」
清吉 「お母さんでございますか、ご機嫌よろしゅ~ございます」
おまさ 「ちょっと、あんた、うちの清吉やがな・・・」と、晴れて親子三人の喜びの再会となった。おまさは清吉に家の中を片付け、酒と肴を用意する間に風呂に行ってさっぱりしてくるように勧める。
清吉が風呂に行った後に、
おまさ 「あの子の着てる着物なぁ、上下すっくり揃えたら相当お金かかるもんやで。奉公人にあれだけええなりをさしてる店はないと思うねん」
安兵衛 「・・・そら俺では分からん、そこらに何ぞあいつの持ちもんないか?」
おまさ 「ここに財布があるわ」、開けて見ると小判がザクザク。帰って来た清吉に、
安兵衛 「おのれはまだ悪い根性が直らんのじゃな。・・・清吉、自首せぇ、改心して真人間になってくれ・・・」
清吉 「何もかも申し上げましょ お家主のお世話でご奉公には参りましたが、三月も続かずに主人の店を飛び出して、どこへ行くともなく彷徨(さまよ)ううちに、悪いことを数重ね、今じゃ東国の地で鬼薊の頭(かしら)と立てられる身の上。 あっしが改心すると言っても、到底仲間のやつが許しちゃくれやせん。 今日帰りましたのはお暇乞い方々、勘当してもらいに帰りましたんでございます。その代わり父っつぁん、このお金は受け取ってください」
安兵衛 「言うな清吉!人もの掠め盗った金、びた一文要らん。とっとと出て行け!」
清吉 「それじゃ仕方ございません。二人ともご達者でお暮らしを・・・」、清吉は出て行ってしまった。
これを苦にして、おまさは病死してしまう。ちょうど三年のちに安兵衛が戎橋から身を投げをするところに通り掛かって助けたのがこの鬼薊の清吉だ。
盗みはすれど非道はせず、ある所から盗んでは貧しい人に施した義賊、鬼あざみ清吉、
「武蔵野にはびこるほどの鬼あざみ 今日の暑さに枝葉しおるる」と辞世を残して、三十二歳で刑場の露と消えた。
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