「女天下」


 
あらすじ 「日の本は岩戸神楽の始よりならでは夜の明けぬ国」、「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」と言えば、「外面如菩薩内心如夜叉」、「世の中にほどしょうのないものはない。おだてりゃつけ上がり、やさしく言えば図に乗って、小言を言えばふくれる、殴りゃ引っ掻く、殺せば化けて出る」とも言う。

 大工の金太は居候していた親方の娘を女房にした。女房はお前の今があるのはいつも親方の恩とかお蔭とか言って金太を尻に敷いている。口答えなどしようものなら、すぐにふくれっ面になって逆にぽんぽんとへ理屈を並べられてとても太刀打ちできる相手ではない。

 今晩も金太は三十分だけという許しを得て風呂屋に行かせてもらう体たらくだ。途中、銀行員の山田さんの家に寄って、山田さんから女房に意見してもらおうと台所の方から入ろうとすると、ちょうど山田さんが帰って来たところで、家の中から奥さんの大きな声が聞こえる。

奥さん 「今日はお帰りが遅いじゃありませんか。銀行はこんな遅くまでやっているんですか」

山田さん 「今日は商用の付き合いで柳橋の料亭へ行って遅くなりました」

奥さん 「まあ、柳橋では芸者もご一緒だったんでしょ。・・・あなたが今の地位にあるのはお父様が書生だったあなたを見込んで学費まで援助してくださったお陰ですよ。それも忘れて芸者なんかとお遊びになって・・・」、もう泣き出さんばかりだ。

山田さん 「遊びじゃないですよ。仕事にはいろいろと面倒な付き合いというものがあって・・・」だが、そんな話が通じるような奥さん方ではない。近所まで聞こえるような大声で、恩知らずとか裏切り者なんて喚き始めた。ついに山田さんは、「分かった私が悪かった。今後は遅くはなりません。・・・大恐縮、大恐縮・・・」と平身低頭の平謝りだ。

 山田さんも学者の根津先生に用事があるからと、三十分だけ許しをもらって家を抜け出した。外へ出ると当てがはずれた金太が待っている。同病相憐れむ、お互いの身の不運不幸を嘆きながら、二人は根津先生の門をくぐった。

 女中の取り次ぎで根津先生の部屋に通された二人は、女房、奥さんの専制、圧政、抑圧ぶりを並べ立てて先生に意見してくれと頼む。先生は腕を組んで黙って聞いていたが、

根津先生 「君たちはそれでも日本の男児か!古来、我が国は男尊女卑じゃ。近頃、男女同権などと騒ぎ立てる馬鹿どももおるが情けない限りじゃ。女なんぞは怒鳴りつけておけばすぐに大人しくなるもんだ。口答えなどすればわしなどは一刀両断にしてくれるわ。まったく君たちのような意気地無しの輩を見ているとわしは怒りが込みあげて来る。男として恥ずかしい、情けない、耐えられない、今から絶好じゃ!」と怒ってはいるが、すごく頼りになりそうな感じだ。

 すると帰って来た先生の奥方が金太と山田さんから何の話をしているのか聞いて、真っ赤な顔になって頭から角が生えて来た。先生の後ろに回って、

奥方 「あなた、しばらくお仕置きをしていませんね。それでこんなに増長して・・・そろそろお灸を据えないと・・・」、すぐに先生、今までの言動とは打って変わって平身低頭、「女は優しくいたわってあげた方が・・・」と180度方向転換だ。

 奥方は先生のやかん頭をポカポカと叩いて、どこにお灸を据えようかなんて面白そうに笑っている異様な光景だ。やっと奥方はちょっと出かけて来ると言って部屋から出て行った。いずこも同じ秋の夕暮れと、呆れて落胆して帰ろうとする二人を引き留めて、

根津先生 「わしは君たちの細君に意見するから、君たち二人でわしの家内を説諭願いたい」


  
アマテラス(天照大神)・雀のお松さん・ヒミコ(卑弥呼)
    

    



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