★あらすじ 町内の若い連中が集まって、仲へでも繰り出そうかなんて景気のいいことを言っているが、吉原で遊べる金を持っている奴などいやしない。そこへ昨晩、吉原で大モテだったという半公が入って来て話し始める。
昨日、半公はあちこち冷やかした後で、安大黒楼という初めての見世に上がった。引付けで茶を飲みながら見立てた女を待っていると、パタパタと上草履の音がして障子が開いて女が入ってきた。その途端、女は「きゃー」と言って廊下へ飛び出した。しばらくしてまた女が入って来て、すぐにお引けとして女の部屋に行った。
女はさっきのことを謝り、身の上話を始めた。女は静岡の在で、近所の若い男といい仲になったが一緒になることができずに、親の金を持ち出して東京に駆け落ちした。その金も使い果たした頃、男がまとまった金があれば商売ができるというので、自分から苦界に身を沈めて金を作った。
それを元手に商売を始めた男とはしばらくは文のやりとりが続いたが、そのうちにぷっつりと途絶えた。きっと商売が上手くいって、若い女でもできたのだろうと男の不実を嘆いていた。それでも諦め切れずに人をやって聞いてみると、重い病の床についているという。
自分は籠の鳥の身の上、そばに行って看病もできず神、仏へ願うのみ。男はとうとう死んでしまった。まだ男の顔がちらついてて忘れられないでいる毎日、さっき障子を開けたらその男が座っているので、びっくり仰天して思わず叫び声を上げてしまったという。
さらに女は「来年、年期(ねん)が明けたら女房にして世帯を持ってくれ」と言い出した。半公が「もちろんいいとも、世帯を持とう」、女は嬉しがったが今度は、「・・・一緒になって世帯じみて、老けてきたあたしに飽きて近所の若い女とできて、あたしは捨てられる・・・」なんて言い始め、めそめそと泣き出した。
半公は「俺にかぎってそんなことぁありゃしねえよ」と、ひょいと女の顔を見ると、目の下に急に大きなほくろができた。それがだんだんと下へ下がって行った。よく見ると女は湯呑みのお茶を涙の代わりに目の縁になすりつけていたのだ。
半公はふざけたことをしやがる、茶がらぼくろ女(あま)だと癪にさわったが、知らん顔で朝までモテたままでいたという。「遊びの巷」での”狐と狸の化かしあい”、”手練手管”の秘術の妙とでも言うべきか。
この話を聞いていた熊さん「おい、半公、これからもその女を買うのか」、
半公 「冗談いうねぇ、買うもんか。ひねりっぱなしよ(一度きり)」、見世の名前が安大黒楼で、女の名は紫と聞くと熊さんは半公の仇討ち?に出掛ける。
紫を指名し見世に上がり、障子が開いて紫が入って来るや否や、「きゃー」と始めて、半公の時とは男と女の入れ替わった話をする。最後は、「・・・世帯を持って・・・もとが浮気な商売の女だけに、俺に飽きがきて、近所の若えもんと出来ちまって・・・なんだか俺ぁ、悲しくなって・・・悲しくなって・・・おっと、おいらん(花魁)どこへ行くんだ?」
女(紫) 「いま、お茶汲んで来るよ」
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