「鷺とり」 桂枝雀
★あらすじ よその二階にやっかい(八階)になっている十階の身の上というけったいな喜六が甚兵衛さんの家に訪ねて来る。なにか金もうけになることを考えているかと聞くと、喜六はいい考えがあるという。それは上町の知り合いの家の庭に伊丹のこぼれ梅をまいて雀を取る「鳥とり」という。
その計略とは、雀がこぼれ梅を食べようとすると用心深い雀が、なにかたくらみがあるかもしれないから食べるなという。そこへ江戸っ子の雀が来て、平気で食べてみせ、なんともない美味い物だというと、雀たちは一斉に食べ始める。
こぼれ梅は、みりんのしぼり粕、いわば酒粕のようなもの。食べているうちに雀たちは酔ってきて眠くなってしまう。頃合を見計らい、そこへ用意した落花生をまく。雀たちは丁度いい枕があるといってみんなそこへ寝てしまう。寝入ったところでほうきとちり取りでササ、サァ〜と一網打尽という寸法だ。
甚兵衛さんは呆れて試したことがあるかと聞くと、喜六は一度やったことがあるという。こぼれ梅をまいて雀たちが食べ始めたまでは計画通りだったが、落花生をまいたら一斉に飛び立って逃げてしまった。落花生をまくのが早すぎたなんて調子だ。
甚兵衛さんは、実際に鳥が沢山集まるところへ行って取り方はそこで考えるようにと、鷺が沢山集まる池がある萩で有名な円頓(えんどう)寺に夜行ってみろと教える。
喜六は夜中に円頓寺へ行くが門は閉まっている。昼間の左官が忘れた梯子を塀に立てかけ境内に入る。池にはぎょうさんの鷺がいる。みんなぐっすり寝込んでいるようだ。今夜の寝ずの番はいい加減な鷺で、これもぐっすり寝入っている始末だ。
喜六は鷺の首をつかんで持ち上げても全然起きない。こりゃあしめたと、入れ物がないので手当たり次第の鷺の首をつかんで帯の間に挟み込む。もうこれ以上は無理となって、帰ろうと塀に上がり梯子を探すが見当たらない。寺の夜回りがはずしたらしい。
塀の上でうろうろする内にあたりが白み始め、一羽の鷺が眼を覚ます。寝ぼけながらもやっと人間に捕まっていることが気づく。仲間の鷺を起こし、喜六の帯の間に挟まったまま空へ飛び出す。
驚いた喜六、どこかにつかまる物はないかと鷺に運ばれながら探していると目の前に鉄の棒。必死にこれにつかまり、帯の間の鷺を逃がして一息ついてあたりを見回し、ここが天王寺さんの五重塔のてっぺんだと分かる。
下では何か変なものが天王寺さんの五重塔のてっぺんにくっついている、天王寺さんに何か異変が起こったのかと大勢が集まってくる。よく見ると人間がしがみついていのだ。
寺の方でも放っておられず、五重塔の下で大きな布団の四隅を僧が持ち、ここへ飛び降りろと大声で叫ぶが上の男には聞こえず、大きな紙に「ここへ飛べ、救うてやる」と書いて喜六に見せる。
やっとこれを了解した喜六、「一、二、三(ひい、ふのみ)で飛び降りた。うまく布団の上へズボッと落ちたが、坊さんたちが一生懸命、力一杯布団の四隅を引っ張っていたもんだから、トランポリンのように弾んで男はもとの五重塔のてっぺんへ逆戻りしちゃったとさ。
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*本来のサゲは「男が布団の真ん中に勢いよく落ちてきたはずみに四隅の坊さんが頭をぶつけ、一人助かり四人死んじゃった」で、枝雀もこのサゲで演じていました。せっかく男を助けようとした坊さんたちが死んでしまうのは可哀想ではあります。
前半の雀を捕まえる話では、用心深い雀、江戸っ子の雀、若い女の雀、老人の雀などや、ちゅん助、ちゅん三郎、ちゅん吉なんて名前を付けそれぞれの雀の個性?を出して演じているのがおかしいです。
江戸っ子の雀が江戸弁で喋るところは、枝雀でもさすがに話しづらそうで、しどろもどろになっておかしかったです(これも演出かも)。
*円頓寺(”えんとんじ”だが地元では”えんどうじ”と呼ぶそうだ)から四天王寺までは直線で5.5kmくらいです。大阪駅東側の太融寺町の寺で、今は小さな寺で池はなく萩もないようです。鷺に運ばれて空中遊覧をした男の気分はどんなものだったでしょう。
*こぼれ梅は、酒所の摂津の伊丹で江戸後期から作られたみりんのしぼり粕のお菓子。甘い酒粕のような素朴な味。アルコールを含むので食べ過ぎるとやはり酒酔いになるそうで、この噺の主人公が雀を酔っ払してしまおうとした策略はさほど的をはずれたものではないかも。 |
円頓寺 《地図》
戦後、境内の真ん中を道路が通って、狭くなってしまったという。
北野円頓寺萩花盛之図 (二代目長谷川貞信)
四天王寺五重塔(高さ39.5m)
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