★あらすじ 宿替えした喜六が浮かない顔してやって来る。
清八 「宿替えした家どないしたんか」
喜六 「出んのです。幽霊が」
清八 「幽霊か、オモロイなぁ、 おら幽霊ちゅうもん見たことないわ。で、その幽霊は男か女か?」
喜六 「女ですねん」
清八 「女の幽霊ならなおさら結構やないか。それ嫁はんにせえや。幽霊の嫁はん便利でええぞ。昼間出てけへんからうるそうなくて気楽だし、いつも同じ格好で着物も買わへん、頭も結やへんし、飯も食いよらへん。
その幽霊かかあにしいな」
喜六 「そない言うけど、この幽霊わいよりだいぶ年上やねん」
清八 「幽霊に年なんかあるんか。いくつぐらいなんや」
喜六 「そやな、年はよう分からんけど、わてのおふくろと同じぐらいやろか」
清八 「お前、その幽霊に恨まれて出られるよな悪いことしたんと違うか?」
喜六 「わい、そんなことしてへん。そやさかい夕べ幽霊に、”何で毎晩出て来るんや”って聞いたんや」
清八 「へえ、お前いい度胸してるな。アホは蛇に怖じずちゅうけど、ほんまやなあ。ほな幽霊何ちゅうた?」
喜六 「そしたら幽霊嬉しそうにわいの顔見てな”あのぉ、トラの子のカネを出してくれ”と、言うねん」
清八 「”虎の子の金”? そんな金、お前預かってんのかいな?」
喜六 「わいそんな預かってへんもん、どないして出せちゅうねんと聞いたんや。そしたら幽霊が三光さんのお宮の裏の松の木の根元に埋めてあるので掘ってくれ言いよんねん」
清八 「分かった。あのへんは真田山と言うて、大阪落城の時に真田幸村があのへんまで落ちのびて、豊臣の再興を期して軍用金をどっさり埋めたんや。それを知っている腰元なんかが金に思いが残って浮かばれずに幽霊になってお前のところへ出て来るちゅうことや」と、清八にしては名推理。
喜六 「たいした金やろな」
清八 「そりゃそうや、小判か大判、金の延べ棒かも知れん。よっしゃ、その金二人で掘り出したろ」
喜六 「掘り出して幽霊にやるんか?」
清八 「アホかお前は。幽霊にお足は要らんねん。金の顔さえ見たら安心して成仏しよるがな。金は二人で山分けに決まってるやがな」
二人は夜を待って三光神社の境内へ行って裏の松の木の根元を掘り出した。しばらくして、
清八 「おお、当たった。コツッちゅうたやろ、あとは手で、手で掘れ・・・壺や、壺や!」
喜六 「わいも、昔から軍用金なんか壺に入れて埋めた言うのんよお聞くわ」
清八 「どや重たいか?」
喜六 「軽いで、やけに軽いで」
清八 「そうか、ここにじかに金が入ってるわけやないねん。金の隠し場所の絵図面かなんかが入ったるのんやろ。よーし、開けて見よか」と、封印の油紙をゆっくりはがしにかかると、生暖かい風フワ〜ッと吹いて来て、白髪の老婆がすう〜っと現れ、「トラの子のカネ・・・」
清八 「こら、ちょっと待て幽霊、お前この男に掘り出してくれちゅうて頼んだから掘り出してやったんや。金のツラ見たら安心するやろ、見て安心したらさっさと去(い)んで成仏してくれ」
幽霊 「いやや、この手で抱きたい」
清八 「抱いて見たかてどうにもならんやろ。まあ、ええわ見たら安心するやろ。喜イ公、フタ開けて見いや」で、フタを開けると、
喜六 「あれ、清やん、これ金と違うがな。何やら・・・骨や、骨が入ったる!」
清八 「ほんまや、おい幽霊、金も小判も入ってへんやないか、骨が入っとるやんか」
幽霊 「それがトラの子のカネ、わたしの名前が「お寅」。わたしの子どもの「お兼」が死んで、これがその骨でおます」
清八 「なにい〜!お寅の子のお兼ぇ〜、こら、喜イ公、ドジ、ボケ、カス、アホ、虎の子の金と違うねや、寅の子の兼やないかいな。・・・あ〜あ、どっと疲れが出よったがな」
幽霊 「この手で抱きたい」
清八 「抱け、抱け!勝手に抱いてどこへでも去んでさらせ。誰が要るかい、そんなもん」、幽霊は嬉しそうにお兼の骨を抱き上げて、ニコニコニ・・・。
喜六 「おお、恐わ、清やん、これがほんまの骨折り損やなぁ」
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