「三枚起請」


 
あらすじ 昔は朝早くから烏(からす)の鳴き声がうるさく、「三千世界の烏を殺し主と朝寝がしてみたい」と都々逸にも歌われたほどだ。
唐物屋の若旦那の亥のさんは、このところ遊びが過ぎるようで母親が心配し、棟梁に聞いてもらう。亥のさんは吉原喜瀬川という女郎に入れあげて相思相愛、起請文までもらっているという。いやがる亥のさんから起請文を見せてもらうと、「一つ起請文の事也 私事、来年3月年期が明け候らへば 貴方様と夫婦になる事実証なり 江戸丁二丁目朝日楼内喜瀬川こと本名中山みつ」。これを見た棟梁、腕組みをし苦虫を噛み殺したような顔になり、考え込んでしまった。自分も喜瀬川から同じ起請文をもらっているのだ。

 そこへ来たのが経師屋清公、人呼んで「おしゃべり清公」がやって来た。二人から起請文の話を聞くと、自慢のおしゃべりも影をひそめ顔色が変わってしまった。むろん喜瀬川の三人目の犠牲者なのだ。まして清公の場合は、喜瀬川に金をせびられて25円も貢いでいるのだ。その金は日本橋に奉公している妹を、母親が具合が悪いので医者に見せると偽って、無理に作らせた金なので、怒り、口惜しさ、無念さは倍増だ。三人は仕返しをしようと相談し、吉原へ討ち入りだ。

 井筒という茶屋に入り、女将に事情を話し喜瀬川を呼んでもらうことにする。二階へ上がった三人、亥のさんと清公は戸棚と屏風の後ろへ隠れ、棟梁がしかめ面でキセルを吹かせて喜瀬川を迎えた。話しかけてもキセルをくわえて何も言わない棟梁に、喜瀬川は自分にも吸わせろとキセルを取ったが、ヤニがびっしりで吸えない。ヤニを通すからと棟梁から紙をもらった喜瀬川、ふと見るとこれが起請の誓紙だ。驚き、あきれて怒る喜瀬川に、棟梁は「起請を何枚書けば気が済むんだ」と攻撃を開始しする。喜瀬川は、「一枚に決まっているだろう」とうそぶくが、棟梁「唐物屋の若旦那の亥のさんにも書いただろ」、喜瀬川「亥のさん?あ〜、若い、白くてぶくぶく膨れて太った、水瓶に落っこったおまんま粒みたいの」と、しゃあしゃあとしている。

 棟梁の、「水瓶に落っこったおまんま粒、出て来な」で、怒って膨れて真っ赤な顔の亥のさんが、「水瓶に落っこったおまんま粒とは何事だ」と飛び出てきた。「二人だけだよ」と、まだまだしぶとい喜瀬川」に、棟梁は、「経師屋の清さんにも渡したろう」と攻撃の手をゆるめない。喜瀬川は、「清さん? あ〜、ヒョロヒョロと背の高い日陰の桃の木みたいのだろ。背が高いだけでキザでやな野郎なんだ」と負けてはいない。

 棟梁の、「日陰の桃の木、出て来な」で、騙され三羽烏の勢揃いとなった。喜瀬川は開き直ってびくともしない。「騙されたからと言って三人で掛け合いに来たのかい。ふん、こっちは騙すのが商売さ。あたしの身体には金がかかっているんだ。騙されて口惜しくて殴るか蹴るかしたかったら、身請けでもしたらどうだい」

棟梁 「女郎は客を騙すのが商売、それを文句言うんじゃねぇ。起請を何本も書くような汚ねえまねするねぇ。”嫌で起請を書く時は熊野で烏が三羽死ぬ”って言うんだ」

喜瀬川 「あ〜、そうかい。あたしは嫌な起請をどっさり書いて世界中の烏を殺したいよ」

棟梁 「烏を殺してどうするんでぇ」

喜瀬川 「朝寝がしたいよ」


     

熊野牛王符(熊野本宮大社)
裏面に起請文を書くと誓約の内容を熊野権現に対して誓ったことになり、
誓約を破ると熊野権現の使いである烏が一羽(一説に三羽)死に、
約束を破った本人も血を吐いて死に、地獄に落ちると信じられた。
起請文としての牛王符を「熊野誓紙」と言った。『悋気の独楽』にも登場する。


古今亭志ん生の『三枚起請【YouTube】



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