「蕎麦の殿様」


 
あらすじ ある殿様が親戚筋へ出向いた折に、座興にと職人が蕎麦を打つのを見せてくれた。見事な職人技に感心し、屋敷に帰った殿様は自分でもやりたくなって家来たちを呼び、蕎麦が好きか聞くと、全員大好物と言うので、早速、大量のそば粉と、馬の行水用のたらいを用意させ、たすきを十文字に掛け威風凛々として、いざ蕎麦を打ち始めた。

 「粉を入れよ、水を入れよ、ちと柔らかい、粉を入れよ、ちと硬すぎる、水を入れよ、・・・・粉だ、水だ、粉だ、水だ」と悪戦苦闘し、汗とヨダレと鼻水がダラダラとそば粉のつなぎに入って、何ともいえない山盛りの蕎麦のお化けが出来上がった。

 さあ、これを家来連中は食わねばならない。つゆと薬味とわさびだけは本物のけっこうな物で、これでグチャグチャでブツブツでドロドロの蕎麦を流し込んで行く。殿さまの「どうじゃ、美味いか」に、「まことに結構なお味で」で、何杯もお代わりを取らされた家来たちは腹がパンク寸前になって下を向くことも出来ない有様だ。殿様は「腹も身の内という。いくら美味いからと言ってそんな見苦しい姿になるまで食すとは何事か!下がれ下がれ」とはあまりにも身の程を知らない言い様だ。その夜は家来たちはへ何度も往復する羽目になる。中には一度入って明け方まで出られなかった重症患者も出るほどだった。

 翌朝、家来たちは青い顔をして登城する。風呂敷におしめを包んで持参した者までいる。殿様はもう蕎麦を打って待ち構えている。
殿様 「昨日よりはちと不出来だが、遠慮なく食せ」

家来 「お蕎麦を下しおかれますなら、一思いに切腹を仰せつけ願わしゅう存じまする」



      




そば屋(「江戸商売図会」三谷一馬より)


三遊亭圓生の『蕎麦の殿様【YouTube】






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