「三味線鳥」


 
あらすじ 「初音の鼓」の一件のほとぼりがさめる頃、殿さまのところに古道具屋金兵衛が、また一儲けしようとやって来る。

 いつもろくでもない、怪しげな物ばかり持って来る金兵衛に家老の、
三太夫 「今日はちゃんとした物でないと殿さまにお取次はいたさないぞ」

金兵衛 「へぇ、恐れ入ります。殿さまがたいそう小鳥がお好きとお聞きいたしまして、世にも珍しい小鳥を持参いたしました」

三太夫 「なに、道具屋が小鳥とはちと妙じゃが、どんな鳥じゃ」

金兵衛 「あたかも三味線を弾くのとそっくりに本調子、二上がり、三下がり、と鳴く珍しい鳥でございます」

三太夫 「また鳴くのか。今度は拙者が鳴かないでもよいのであろうな。もう鳴くのは御免だぞ」

金兵衛 「ご冗談を、この鳥が自ら美しい声で鳴きおります」、三太夫は殿さまにこのことを取り次ぐと、なんと殿様、性懲りもなく百両でこの三味線鳥なるものをお買い上げになった。

 さて、暇な殿様、座敷に鳥籠をぶら下げて、そばで三味線鳥が鳴くのを楽しみに待っているが、三味線の音どころか、ピィともチィとも鳴かない。しびれをきらし、業を煮やして、

殿さま 「三日ほどなれば場所に慣れないということもあろうに、今日で十日も過ぎたのに一向に鳴かんではないか。これ三太夫、その方また道具屋と示し合わせて、よろしくいたしたのであろう。申し開きがあるなら言うてみよ。ことと次第によっては捨て置かんぞ」と、ご立腹で鳥籠を三太夫の目の前へ放り投げた。

 三太夫は恐縮して鳥籠を抱えて殿さまの御前から引き下がって鳥籠を前にして、

三太夫 「その方、なぜ鳴かんのだ。そのために拙者は切腹を申し受けるやも知れん。拙者も武士のはしくれ、殿のためお家のため戦場で命を捨てるはいとわねども、わずか一羽の鳥のために命を捨てるとは、(芝居がかりになって)どうしてご先祖さまに顔向けができようぞ。みなその方から起こったこと・・・・おのれぇ~はぁ~なぁ~・・・」、すると鳥籠の鳥が、

「♪ちんちん、ちりちり、ちりりりりん」


     


        

596(2017・12)




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