「鼻利き長兵衛」


 
あらすじ 鼻利き長兵衛という男、十里四方ならなんでも嗅ぎつけるという鼻を持っているが、どこにでも現れて喧嘩っ早く、酒を飲むとからんだり野暮なことを言って座を白けさすので町内で嫌われている。

 ある日、町内の連中が四、五人集まって、どこか長兵衛の来ないところでゆっくり酒を飲もうということになった。

辰公 「王子まで足を延ばしたら、いくら長兵衛の鼻だって嗅ぎつけやしまい。鼻利き長兵衛は御免だが、かかあ孝行の甚兵衛さんを連れて行こう」、かみさんが臨月という甚兵衛さんを誘うと、
甚兵衛 「生まれるのは今月の末だそうで。王子に是非一緒に連れて行ってください」と言うので、五人ほどでがやがやと王子へ出掛け、料理屋へあがった。

辰公 「あぁ、この座敷はいいね。ゆっくり遊ぶには持って来いだ。姉さん、木の芽田楽が食べたいんだが、よろしくお頼みするよ。事によると鼻の頭の赤い男が、私達を訪ねて来るかも知れないが、そうしたら、来ていないと言って断ってくださいな」、長兵衛のいない座敷は和気あいあいで盛り上がっている。

 一方、取り残された長兵衛は、クンクンと鼻を利かせて、「おや、かかあ孝行の甚兵衛も行っていやぁがる。畜生め、近所で飲むと俺が押し掛けるてぇんで、王子くんだりまで出掛けやがったんだな。くそっ!こうなったら押してかけて行って驚かしてやろう」と、王子へ急行だ。

女中(料理屋) 「御免下さいまし」、「はい、なんで姐さん?」

女中 「あのぅ、ただいま鼻の頭の赤い方がお出でになりました」

辰公 「えっ、来ましたか。だから断っておいたんだ。帰してくれましたか」

女 「ええ、一度お断り申したのでございますけれども・・・、この中に甚兵衛さんという方がおいでになりますか」

辰公 「甚兵衛というのは酔ってここに寝ている人だよ」

女中 「その甚兵衛さんというお方のおかみさんが、今月が臨月なんだそうで・・・甚兵衛さんがお留守になったものですから、おかみさんが井戸端へ水を汲みにお出になって、すべって転んだ途端に赤ん坊が産まれて、それを見ておかみさんが血が上がって亡くなってしまったそうで、・・・長屋中大騒ぎの所へ、鼻の頭の赤い人がちょうど通り掛かって、甚兵衛さんのいる所を嗅ぎ当ててやろうと言って、ここにいる事を嗅ぎ当てて、わざわざ知らせにお出でなすったんだそうでございます」、びっくりしてみなで甚兵衛を揺り起こすと、

甚兵衛 「あんたらが殺したも同じだ。私を今日こんな所に引っ張って来たから、・・・私がいりゃぁ、水なんぞは汲ませやしません」と、気が動転し泣き出す始末だ。すると長兵衛が入って来て、

長兵衛 「やあ、皆さんこんにちわ、汗をかいてやって来たんだ。すぐに一杯飲ましてくれ」

辰公 「おい、長兵衛、後でゆっくり飲ましてやるから、先に甚兵衛さんのかみさんの話を聞かしてくれ」

長兵衛 「おかみさんは家で裁縫仕事でもしていましょうよ」

辰公 「甚兵衛さんの留守に、おかみさんが井戸端ですべって転んで、血が上がって死んだって・・・」

長兵衛 「おぉ、こいつは上手くはまったな。ここに甚兵衛さんのいる事が分かっているから、口から出まかせにあんな事を言ったのよ」、「なんだ嘘かい」、「嘘だとも」

辰公 「畜生め、聞いたか甚兵衛さん、全部嘘だそうだ」、今泣いた子がもう笑って、

甚兵衛 「はい、これでやっと安心いたしました。どうも長兵衛さん、いろいろお世話様になりまして・・・」、別に礼を言う必要はないのだが。

辰公 「まぁ、折角来たのだから今日はゆっくり飲ましてやる」

長兵衛 「ありがてぇ、早速一杯・・・おぉ、田楽があるな、こいつを一つ」

辰公 「ちょっと待った。その田楽をむやみに食っちゃいけない。ンの字廻しと一つ言ったら一本食べるんだ」

六さん 「それじゃ、あたしが先へやらしてもらいますよ。きんかんばんのまんきんたん、というのはどうで」

辰公 「金看板の万金丹・・・じゃぁ、六本持っていきな」

留公 「みかんきんかん酒のかんで四本だ」、俺にもやらせろとしゃしゃり出て、

長兵衛 「なんですよ、火事なんてえものはね、妙なもので三月に出た火事は大きくなるんだそうで、四月の火事はじきにに消えるそうですよ。それからまた三月頃は昼火事が多いそうでね。まぁ、先へジャンジャン、それから直きに、ジャンジャンジャン、ジャンジャンジャン」

辰公 「おい、それが数の内か」、「そうですよジャンジャンジャン」

辰公 「おい、姉さん、算盤貸しておくれ」

長兵衛 「ジャンジャンジャン、ジャンジャンジャン・・・」

辰公 「こらぁ!黙ってればいい気になって、一体何時いつまでやってるんだ」

長兵衛 「田楽が焼けて来るまで」


    
 

        


飛鳥山公園
落語「花見の仇討

飛鳥山


音無親水公園石神井川

王子・滝野川」・「王子音無川堰



597(2017・12)




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