「近眼の煮売屋」

 
あらすじ 清八がおかずをぎょうさん並べて、一人で酒を飲んでいるところへ喜六がやって来る。「うわーぁ、えらい、ええ景気やな。・・・このかまぼこ、えらい大きいな。美味そうやな」
清やん 「これは紀州のかまぼこやで。酒は灘の蔵出しで、九谷の猪口(ちょこ)で冷(ひや)でやってるのや」、喜六は、「これは、何や、これは何や」と、指さしながら聞いて行く。清やんは、「これは、このわたきずしイカの木の芽和え、焼き豆腐、・・・」などと、説明しながら食べている。

喜六 「こら、ええとこへ来たな。ご馳走さん」、友達とはいえ、ずうずうしく今にもおかずに箸をつけそうな喜六にちょっとむかついた清やん、「何や、まだ飲めと言わんのかと言うような顔で、前にどっかり座ってられたら、こっちは意地でも飲めとはよう言わんのや」

喜六 「ほんに、わしが悪かったわ、謝るは。謝るよって一杯の飲まして」と、あっさり頭を下げる情けなさ。清やんはからかってやろうと、「これぐらいの物、その気になったらお前かて揃えられるんや。こら皆、タダや」

喜六 「盗んでくるんか」

清やん 「そやないわ。隣町の煮売屋へ行てな、欲しいものみな包ませて金を払う時に、屋台の向こう側に金落とすねん。ほんまの金やなく、紙切れでもなんでもかまへん。ああ、えらいことした、そこへ金おとしたと言うのや。親爺はたいそうな近眼(ちかめ)で、どこでやすと、地面近くまでかかんで探すから、そこで親爺の背中を押すのや。親爺がへたり込んだ隙に包を抱えて逃げて帰ってくるねん」

喜六 「何と無茶な事するのやな。そんな事してええのかいな」、むろんええ事はなく立派な犯罪で、冗談のつもりで言ったのだが、「よし、わしもやって来たろ」と穏やかでない。

清やんが「ちょっと待て、冗談やがな。一杯飲ますがな」と、引き留めるが喜六は、「・・・気兼ねしながら飲んだかて美味くもなんともあらへんがな・・・」と、行ってしまった。

 しばらくすると走って帰って来た喜六、「行って来たで」
清やん 「そんなことほんまにするやつがあるかい」

喜六 「お前と同じようにかまぼこ、イカの木の芽和え、このわた、焼き豆腐・・・みんな包んで・・・親爺の背中を押してへたり込んだ隙に逃げて帰って来たんや」

清やん 「そんな可哀そうなことしないな。で、品物は?」

喜六 「あっ、忘れて来た」




 
  
桂米朝の『近眼の煮売屋





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