「頓智の藤兵衛」
★あらすじ 頓智の藤兵衛が質屋の伊勢屋の前を通る掛かると、何でも自慢したがる主人から呼び止められる。
主人(伊勢屋) 「おい、藤兵衛さん、けっこうな物が手に入ったからちょっと見ておいでよ」、どうせ質で流れた物を自慢すると思ったが、
藤兵衛 「へえ、そうですかい。それではちょっとだけ拝見を・・・」と店の中に入った。
主人 「どうだい。この木彫りのねずみの素晴らしい出来栄え。こりゃあ、左甚五郎の作かも知れないよ」、確かに上手く彫ってあるが甚五郎の作とは恐れ入った。まあ、無難に褒めて切り上げようと、
藤兵衛 「なるほど、見事に彫ってありますね。じゃあ、あっしはこれで・・・」と帰ろうとすると、
主人 「いくらおまえさんに頓智の才があるからと言って、こんなねずみは彫れはしまい」、この一言がカチンときてプライドを傷つけられて、
藤兵衛 「あっしならもっと上手に彫れまさあね。今晩彫って明朝に持ってきますからどっちが本物のねずみか比べようじゃありませんか」、ということで、藤兵衛さん家に帰って小刀でちょこちょこと削って持って来た。
藤兵衛 「どうです、このねずみ。本物そっくりでしょう」、それを見た主人、「なんだいこりゃ、おふざけでないよ。どこがねずみなんだい」、確かにただの不細工な木の塊だ。
藤兵衛 「そんならどっちが本物のねずみに似ているか猫に聞いてみようじゃありませんか」
主人 「どうせ猫に聞いたってニャンとも言わないだろうが、まあいいだろう」と、二つの木彫りのねずみを畳に置いて、飼っている猫を抱いて来て座敷の前で下ろすと、猫まっしぐらで藤兵衛さんのねずみに飛びついて口にくわえて庭へ飛び出してしまった。がっくりして悔しがる旦那に、
藤兵衛 「どうです旦那、猫は旦那のねずみには見向きもしませんでしたよ」と、勝ち誇って縁の下で鰹節の塊と格闘している猫に礼を言って立ち去って行った。
少し行くと人だかりがして、二人の男が杖を振り上げて何か大声で言い合っている。「どうしたんだい」、「あぁ、藤兵衛さんか、ちょうどいいとこへ来た。按摩さんが二人で正面衝突しちまったようで、お互い相手を目明きと思って、一方が”目明きのくせしやがっって、こんな真っ昼間に突き当たるやつがあるか”って杖でポカリだ。相手の按摩さんも”おれは目明きじゃねえや”って怒って杖でポカリで止まらなくなった。お互いに耳だの頬っぺたをつねったり、引っ掻いたりして血がダラダラで、止めようとしても杖で見境もなく殴ってくるからそばにも近づけずけずに手がつけられねえ有り様だ。何とか頓智でこの喧嘩を収めてみてくれ」
よっしゃおれにお任せと藤兵衛さん、半丁ばかり戻って、大声でゆっくりと歩きながら、
「下にい居ろ、下にい居ろ」、これを聞いた取っ組み合い中の按摩さん、「おい、止めろ、放せ、お通りだ」で、杖を放り出して地面に座って、平身低頭で「へぇ~っ」、藤兵衛さん、その前をすう~っと通り過ぎて行ってしまった。
集まっていた人たちもこれを見てひと安心、さすが頓智の藤兵衛と感心しきりで立ち去りかけるが、見るとまだ二人は地面におでこをくっつけてお辞儀をしている。それを見てみんなどっと笑い出してしまった。
按摩さん 「あぁ、ずいぶん大きな大名のお通りと見えて、なかなか大勢の供揃いだ」
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大名行列(園部藩参勤交代行列図(一部・ウィキペディアより))
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