「茶漬幽霊」


あらすじ 喜ィさんの女房のお咲さんが病でコロッと死んでしまった。死ぬ間際に代わりの嫁さんをもらったらすぐに化けて出て、あんたのヘソを噛み切ると言い残した。喜ィさんも生涯メス猫一匹たりとも膝の上に乗せないと約束して看取った。

 四十九日も過ぎた頃、横丁の世話好きの甚兵衛さんが喜ィさんに縁談を持って来た。知り合いの娘でお花さんという気立てのいい女だという。甚兵衛さんからくどかれた喜ィさんは、断れ切れずにお花さんを後添えにもらうことにする。お咲さんの百か日も過ぎた吉日に甚兵衛さんの仲人で二人は祝言のまね事を挙げた。

 仲人は宵の口で、後は喜ィさんとお花さんの二人きり、お咲さんとの約束を覚えている喜ィさんは、お花さんを先に寝かせて、お咲さんが化けて出るのを待っている。

 夜が更け、幽霊の登場時間の丑三つ時を過ぎても幽霊は現れず、夜が明けてしまって喜ィさんは期待外れの拍子抜けだ。出べそ噛み切られなかったのはありがたいが。あの世からは十万億土というから初日には間に合わなかったのだろうと、次の日、二日目、三日目も待ったがまったくその気配はない。

 あっと言う間に三年が経ってしまった。お花さんはよく気がつく働き者しっかり者で、家事を切り盛りし、怠け者の喜ィさんもつられて仕事に精を出すようになって、今では暮らしぶりも楽になって以前とは比べ物にならない。ある日、お花さんは家主たちと芝居見物に行くことになった。喜ィさんは新調した着物をごっそりとお花さんに着せて送り出す。

 昼飯は喜ィさん一人で昨日の残りの冷や飯で茶漬けだ。サクッサクッサクッと茶漬けをかき込んでいると、なぜか面倒と苦労ばかりをかけたお咲さんのことを思い出してきた。するとその後ろに「恨めしい」と立ったのがお咲さんの幽霊だ。

 長い黒髪振り乱し、「新しい嫁さんもらうなんて約束が違います」と言い出した。喜ィさんが、「待っていたのに約束どうり祝言の晩になぜ出なかった。三年も経って何が恨めしいだ」と言い返す。

 お咲さんは、お棺に納める時、頭を丸坊主にされて恥ずかしくて出られなかった。もっと早く出たかったけど頭の毛が生え揃わず、三年間、髪の毛が伸びるのを待っていたのだと言う。喜ィさんもなるほど「髪は女の命」、それが女心と言うものかと納得だが、

喜ィさん 「なんで真っ昼間の茶漬け食うている所へ出て来んねん? 幽霊なんちゅうもんは、草木も眠る丑三つ時に出るから恐いんや」

お咲さん(幽霊) 「その時分はこっちが恐い」

 林家染丸(三代目)
収録:昭和59年7月(口演年月不明)


   


 三年目』の上方版の噺です。


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