「長者番付」  柳家小さん(五代目)

 
★あらすじ★ 江戸から遊山旅に出た二人連れ、村の茶店で飲んだ酒が、村を出ると酔いが醒める「村さめ」と飲むとすぐ醒める「じきさめ」。
弟分はこれをガブガブ飲んだもんで頭が痛いという。

近くに造り酒屋があるというので、酒を売ってもらいに行く。
酒屋のあるじに1升売ってくれと頼むが、だめ。2升、5升でも造り酒屋なのでそんな少量では売れないという。
いくらなら売るのかと聞くと、馬に一駄か、一車か、船に一艘なら売ると言われる。
これを聞いた兄貴分が頭にきて、この田舎者のどんつく野郎、うんつく野郎などと悪態を浴びせる。
怒って何を言っているのか分からない酒屋のあるじ、若い者に耳打ちし、部屋にかんぬきをかけさせ、回りをまきを持って取り囲ませる。

酒は売るから、「うんつく」「どんつく」の意味を教えろとせまる。
困った兄貴分は、あるじの後ろの長者番付を見て、口からでまかせの話をはじめる。
「うんつく」は運がつく、「どんつく」もどんどん運がつくということだと言うが、あるじは半信半疑だ。
そこで、長者番付の西の大関、鴻池善右衛門に運がついて、「澄み酒」を作ったいきさつ、東の大関、三井八郎衛門が旅先で運がつき商売を始め、ついには江戸に出て越後屋の暖簾をあげた話をする。

すると、酒屋のあるじはすっかり感心、納得して無礼を詫び、二人にいくらでも飲んでくれと酒を振舞う。
そして、造り酒屋へ入ったなら、「江戸の新川の者でございますが、利き酒をさせてもらいたい。」と言えば、ただで、いくらでもいい酒を飲ませてもらえると教える。
今日は泊まっていけと言うのを断り、帰り際にあるじの女房は「女うんつく」、せがれは「子うんつく」などとたたみかけると、あるじはすっかり喜ぶ。

店を出ると、弟分が兄貴はよく、鴻池だの三井の先祖のいわれを知っているなあと言う。
兄貴分は、さっきの話は口からでまかせのでたらめだという。
弟分は江戸では、馬鹿とかまぬけの意味のことばの、「うんつく」「どんつく」をよくこじつけて話しを作ったものだと感心したり、田舎者は甘いものだなどと笑う。
すると、後から酒屋のあるじが追ってくる。
弟分は、あるじがだまされたことに気がついて追ってきたのではと心配する。

酒屋のあるじ 「おおい、江戸の方」

兄貴分 「何だい、うんつく」

あるじ 「おめえさまがたも早く江戸さへ帰って、一生懸命はたらいて、いいなうんつくになんなせいよ。」

兄貴分 「なに言ってやがんで、俺たちゃあ、うんつくなんざでえ嫌えだ。」

あるじ 「なに、でえ嫌え、ああ生まれついての貧乏性か。」


     

新板大江戸持◯長者鑑」(長者番付)
越後屋と白木屋が勧進元で、行司は両替商の三谷三九郎


 
★見聞録★ 昭和63年のNHKテレビ「演芸指定席」からの収録です。
四代目小さんの十八番の噺だったと小さんは語っています。舞台の袖で聞いて覚えた噺だそうです。
上方では、「東の旅」(伊勢参宮神乃賑)シリーズの一つで、「うんつく酒」と題されています。

田舎者を小馬鹿にしたところのある噺なので、もちろんどこの村、どこの造り酒屋かは分かりません。
ただ、遊山旅の二人に馬に一駄(四斗樽2丁分)でなければ酒は売らないという酒屋のあるじもちょっと意地が悪い気がします。
とっさの場面で作り話をする兄貴分の気転のよさと才覚は大したものです。

この二人、早速酒屋のあるじから教わった、「江戸の新川の者でございますが、」と言って利き酒を装って、ただ酒を飲もうとするのでしょうか。
そんなことをすれば、いづれ見破られ今度は本当にひどい目に合うに決まっています。

*新川は、「中央区新川1丁目を北西から南東に割っていた堀川。
今は埋め立てられている。
この川すじには酒問屋がずらっと軒を並べ、北岸は下り酒問屋(関西方面の本場の酒)、南岸は地廻りの問屋が多かった。
新川の旦那衆は、酒問屋の主人やそこの大番頭のことで、金ばなれのよい、花柳界でははばのきく連中が多かった。」『落語地名辞典』

*「うんつく」とは、『知恵の足らぬ者。とんま。のろま。「どんつく」は、はたらきのにぶいこと。愚鈍のこと。またそのさま、そのような人をいう。のろま。「どんつく野郎」 
「どんつくの奴には出来ぬたいこ持」/柳多留42』(三省堂大辞林)


柳家小三治の『長者番付【YouTube】

   酒問屋が並んでいたという中央区新川1丁目の通り。日酒販の看板が見える。

新川酒問屋」(「鬼平犯科帳と江戸名所図会」より)

八丁堀周辺歴史案内 新川編



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